仙台と福岡(その3)福岡市地下鉄各路線について
仙台と福岡(その2)地下鉄直結!福岡空港からの続編です。
福岡市地下鉄3路線目として、2005年2月に天神南ー橋本間の12㎞が開業した七隈線。
事業化のためには、コスト削減で断面積の小さいリニア地下鉄が採用され、既存路線との直通を当初から断念することとなった上、開業前には、幾度となく需要予測が下方修正され、ようやく開業にこぎつけた感があった路線。この紆余曲折ぶりは、「仙石線相互直通+モノレール南西線」計画撤回により生み出された、仙台市東西線とも共通するところ。同じリニア地下鉄というところも。
将来の延伸を見据えて、天神の駅位置が天神地下街を挟んで南側に置かざるを得ず、既存の地下鉄空港線乗換のためには、その天神地下街経由で10分弱の改札外乗換を強いられ、地下鉄で博多駅や空港方面へ行くには、非常に遠回り感が生じていました。
博多駅へは途中の薬院駅で博多駅行のバスに乗り換えるか、それであれば、最寄りのバス停から直接博多駅行に乗った方が楽という、中途半端さがあだとなり、開業後も西鉄バスが真っ向勝負で博多駅直行バスをバンバン出し続けたため、当初は、七隈線の一日の利用者数が4万人台(需要予測11万人)と惨憺たる利用状況となっていたとか。
もともとの構想は天神南・中洲川端駅経由ウォータフロント方面と、途中の薬院駅で分岐して博多駅延伸という路線が考えられていましたが、ウォータフロント方面構想は中洲川端駅で既存2路線に乗り換えできるというメリットの反面、採算性に難があり、天神南行と博多駅行を分岐させる運行体系は無駄が多いということで、延伸計画は決まるまで時間がかかりました。
せっかく整備した七隈線の利用促進のために、
2011年に実際開業した現ルートの整備が決定し、天神南駅からキャナルシティ博多経由で博多駅乗り入れ工事を開始したものの、記憶に新しい平成28年の工事中道路陥没事故で開業が2年程遅れ、令和5年3月26日にようやく博多延伸開業にこぎつけたとのこと。
七隈線雑感については、過去記事と重複するので、こちらを。
札仙広福の人口密度比較 その1 福岡都心部編 2023.05.15
開業前の低利用率から一転、博多駅延伸開業後の混雑状況が話題になっていた七隈線に初めて乗車しました。あえて朝ラッシュ時をめがけて、宿泊していた天神の宿を朝早く出て、終点の橋本駅まで向かって、平日の8時頃に博多駅に到着する電車に乗ってみました。
仙台の東西線で乗り慣れているリニア地下鉄の車両サイズですが、やはり窮屈感は否めません。向かい側の席が目の前に感じます。
下りは6時台だったため、当然ガラガラで25分の道のりを橋本まで。この駅は、日本最西端の地下鉄駅とか。
一旦改札の外に出て、駅周辺を観察しましたが、幹線道路沿いで上空には都市高速環状線が走っており、向かい側には「木の葉モール橋本」というそこそこのサイズの郊外型SCが。かなりの郊外を感じるエリアで、この光景見覚えあると思ったら、仙台の三井アウトレット仙台港と産業道路・上空に東部道路という組み合わせに似ている。
橋本駅周辺は住宅密集地という訳ではなく、発展途上な印象で比較的低密な土地利用が広がる中、周辺の丘の上に見えるニュータウンからの乗り継ぎバスターミナルがありました。地下鉄で博多から30分の終点なので、郊外なのは当たり前にしても。
広々とした橋本駅構内です。
7時29分発博多駅方面の朝ラッシュ時の電車に着席乗車でしたが、発車後3~4駅でようやく空席が埋まり、福大前駅あたりからは多少混雑してきました。
六本松と薬院の間の数駅はドア付近はかなりの混雑で積み残しも多少あるようでしたが、座席に挟まれた通路の部分は2列でつり革をゆったりとつかめるような混み具合で、足元もかなり余裕あり。ピークはもう少し後だったのかもしれませんが、最高140%の乗車率という前評判?に対し、多少拍子抜け。一応夏休み前の学生も多い時期でした。確かに、リニア地下鉄の小型車両では2列ではゆったりつり革をつかめるけど、3列になってまで中に詰めるのは困難という中途半端な車幅ではある。
予想通り、西鉄乗換の薬院駅で混雑が緩和され、天神南駅で過半数が降り、あとは立ち客がパラパラ状態で博多駅方面へ。仙台もですが、実際混雑が激しい区間は数駅だけという感覚は同じでした。
一般的な地下鉄は都心部を貫通して双方向の利用がありますが(空港線はこのパターン。仙台の南北・東西線も。)、七隈線は博多・天神南・薬院という繁華街や乗換駅が終点寄りに固まっており、片道28分の片輸送気味で、福大輸送はあれども路線としては効率は良くないと感じました。延々と住宅地から小型車両4両編成で20分以上も乗客を集めていけば、さすがに車内が混雑するのは当然で、仙台の東西線でさえ、東の終点荒井から片道10分を超える仙台駅直前はかなりの混雑になる。
ミニ地下鉄では大江戸線は8両編成で乗客を詰め込んでいるなど、1両当たりの輸送力が小さい分を編成を長くして対応するしかない。
そもそも西鉄バスが地下鉄へのシフトに協力的であれば、七隈線は博多延伸時に6両編成への増結が可能になる程度の利用者数と経営状態にもなり得たと考えます。郊外からの片輸送を少しでも軽減させ、利用者数を確保するために、沿線のマンモス大である福岡大学を経由させ、車両基地設置の都合で引っ張った橋本方面へはかなりの遠回りの線形となるなど、苦労がしのばれる計画でもありました。
西鉄バスとしても、当時真っ向から勝負に出たのは、元々経営していた路面電車が廃止を強いられ、市営地下鉄空港線・箱崎線への移行に協力したという背景から、これ以上ドル箱の沿線の乗客が根こそぎ奪われるのを避けるためというのは、民間企業の判断として分からなくもないですが、結局博多駅延伸されれば勝ち目がないと、乗務員不足もあり白旗を上げるタイミングは結果論ではあるとしても、悪すぎるとしか。
流石の空港線ラッシュ
一旦ホテルに戻ろうかと思いながらも、せっかく博多駅まで行ったので、空港線に乗り換え、姪浜方面へ乗車。大濠公園を散歩しようと思ったら、大雨が降ってきたので、とんぼ返りで大濠公園駅で8時半頃のラッシュ状況を観察しました。
3分間隔で、6両編成の車両が双方向に行き交い、どの電車もかなりの混雑。入口付近はもちろんのこと、七隈線と異なりドアとドアの間もそれなりの混雑であることが感じられました。また、当然ながら、空港線なので福岡空港に向かう大きなスーツケースを持った乗客も目立ち、ラッシュ時に乗り込もうとすると結構辛そうでした。
特にJR筑肥線直通のJR車両の混雑が激しいことは、一見して分かりました。
糸島市や西区からの郊外電車の役割を担いながら、学生街でもある副都心西新、赤坂から天神までのビジネス街、繁華街中州、新幹線では西日本随一の大ターミナル博多駅、便利過ぎる福岡空港を貫通する効率の良い路線ということを実感。さらに、箱崎線にも昼間に15分毎に分岐する直通が走るなど、空港線については、50年前にこのような路線網と輸送体系を計画した福岡市は流石としか。ただ、西鉄との関係や、貝塚線との直通が実現せずに、結果的に箱崎線を持て余している反面、七隈線の低輸送力など、苦労しているところもありますね。
これは、訪問時の福岡空港駅の時刻表ですが、朝の8時台だけはJRからの博多駅乗換客対応かやたらと多く16本/h と仙台の南北線と同じ本数ですが、その他の時間帯は概ね7~9分間隔。夕方もそれほど多い訳ではない。空港発ということを考えると6両編成なので十分な本数と輸送量ですが、当然2駅先の博多駅ベースで考えると同じ本数でもやや少なく感じました。2年前の七隈線博多駅延伸で、天神方面へは七隈線利用という選択肢も出来たとはいえ実質別の駅であり、JRからの乗り換えを考えると空港線乗換よりプラス2~3分多くかかるので、空港線ホームで次の電車を待った方が早いという状況。
空港線は、博多駅から2駅先(天神の1駅手前)の中洲川端で箱崎線から天神方面へ乗り入れる電車が昼間で15分おきにあるため、パターンがバラバラになっているという理由もあります。
注)訪問時に抱いた感想に対し、今年の3月から地下鉄空港線で一気に19往復の増便が行われ、朝の7~9時台や夕方の17~19時台も毎時数往復ずつ増発されました。
仙台市地下鉄は、平日昼間及び土日終日の減便で該当時間帯は10分間隔と、正直悲しくなります。
過去記事
- 仙台市地下鉄 7月からの減便正式発表 2023.05.29
相互乗入がない仙台の地下鉄と比較すると、JR筑肥線及び箱崎線2路線からの乗り入れがあり複雑に感じます。
筑肥線は地下鉄開業時に単線非電化で地上を走り踏切だらけの並行部分(姪浜~博多)を廃止したということで、実質地下鉄空港線が旧筑肥線の連続立体交差化のような複雑な経緯を持つとはいえ。
仙台で例えると、仙山線の北仙台~仙台を廃止し、南北線に乗り入れているようなイメージか。その筑肥線を過去に廃止したエリアに地下鉄七隈線を整備したとか、都市の発展に合わせて苦労したところがあるように感じました。
存在感が薄い箱崎線
大動脈の空港線から中洲川端駅で分岐する4.7㎞の枝線的な箱崎線。終点の貝塚駅で西鉄貝塚線に乗り換えができます。
福岡市地下鉄の最初の開通区間は、室見ー天神という中途半端な区間で、博多駅乗入れも仮駅を設置して段階的に実施したというように、いろいろ苦労してきたようです。意外だったのは、博多駅までの開通より前に、天神から分岐駅の中州川端駅を経由して箱崎線の呉服町駅までが第二期延伸区間だったこと。現在は大動脈である空港線に対し存在感が薄い箱崎線ですが、中洲川端駅で2層でホームが設置され、建設時から2路線が一体的に整備されていたんですね。
地図をみると、中洲川端駅から東にまっすぐ進む箱崎線がメインで空港線が南に分岐するようにも見えます。というのも、西鉄が運営していた路面電車では、姪浜から九大箱崎キャンパス付近までがメイン路線だったようで、その代替として箱崎線計画されたこともあるのかと納得。
沿線には、箱崎に県庁や九大のキャンパスなどの目的地となる施設も点在していましたが、平行してJR鹿児島本線も走っており、県庁と九大病院はJR吉塚駅、箱崎キャンパスはJR箱崎駅からも徒歩圏。さらに、地下鉄・西鉄の貝塚駅近くに、JR新駅の設置が決定しており、更に競合が激しくなります。
それに、九大は、医学部のキャンパスと大学病院は残っているものの、箱崎キャンパスは六本松キャンパスと合わせて伊都キャンパスへ移転したため跡地となってしまい、利用者である学生・教職員はごそっといなくなってしまいました。
ただ、跡地の約28haについては、住友商事を中心とするグループが落札し、再開発が始まります。
規模とすると、東北大学農学部(雨宮キャンパス)跡地が9.3haなので、約3倍の面積に、居住、商業、医療機能が整備されるということなので、内容も雨宮キャンパスの拡大版というイメージですね。9.3haの雨宮キャンパスでも15年以上かけて今秋のイオンモールオープンでようやく完成となることを考えると、10年以上かけて徐々に整備していくことになりそうですね。住居も2000戸とあすと長町の高層マンション群に匹敵する戸数が徐々に整備されるとなると、利用者も徐々に増えていくことが見込まれます。
天神方面へはこの箱崎線各駅から一部直通(毎時3~4本)で行けますが、博多駅方面は中洲川端駅で乗り換えが必要。
よって、博多駅などJR鹿児島本線沿線は、JR箱崎駅から2駅5分で博多駅と、利用者はJRと地下鉄に分散しています。利用者目線では地下鉄もJRも(そして西鉄バスも)使えて便利ですが、 福岡市交通局としては、地下鉄開業後に国鉄からJRになり本数が激増し、また駅高架化により駅が使いやすくなるなど競合路線の利便性が高まったため、利用者が伸び悩んだことは誤算でしょう。朝ラッシュ時も昼間も変わらず毎時7~8本の運行というのは、空港線優先ダイヤとなっていることと、JRと並行していることで、この本数でも十分に運べるということか。
とはいえ、上述のJR貝塚新駅は、キャンパス跡地の利便性を高めることになるでしょうし、箱崎線にとっても、最大60円の乗継割引はあるとはいえ、これまで、乗換駅の千早と貝塚で「JR⇔西鉄⇔地下鉄」と乗り換えるのは3社を経由して割高なため利用を敬遠していた天神方面との利用客が、JRから直接この貝塚新駅で地下鉄に乗り換えることも想定され(混雑する博多駅乗換からのシフト)、多少は箱崎線の活性化にも多少寄与することに。
また、西鉄貝塚線と地下鉄箱崎線の乗換駅である他、物流系の事業所や公営住宅が点在するエリアとしての位置付けで、駅前には空き地と自転車置き場が目立つような貝塚駅周辺ですが、箱崎キャンパス跡地開発のエリアにも含まれ、JR新駅との間も整備され、新駅開業後は大きく印象が変わることになりそうです。
写真は西鉄貝塚線と乗換できる箱崎線貝塚駅改札です。
地下鉄ですが地上駅で、振り返ると西鉄の改札が。平面で1分程度で乗り換えが可能です。
(おまけ)地下鉄直通構想頓挫&輸送力不足 貝塚線
朝夕でも概ね10分間隔、昼間や休日は約15分間隔です。概ね地下鉄が昼間7.5分間隔なので、接続する地下鉄は2本に1本の空港線直通に合わせているようです。
2両編成のレトロな電車で、最近置き換えのニュースがでたようですが、昼間では6両編成の地下鉄からの乗換者でさらっと埋まる程度。
朝夕は、千早駅近辺の再開発地に林立するマンションからの利用者でかなりの混雑になっているようですが、そもそも2両編成かつ朝夕でも単線約10分間隔という輸送力不足が理由。せっかく20年以上前に香椎副都心土地区画整理事業のJR線と合わせて西鉄香椎以西が高架化された際に、地下鉄直通にも対応できるような設備にはなっているようですが、2007年の末端区間の一部廃止(西鉄新宮ー津屋崎駅)、交換設備の撤去などで朝晩の本数が減っています。
以前は、博多駅近くの千鳥橋まで乗り入れしていた西鉄宮地岳線の貝塚以西が西鉄市内電車に組み込まれ、結果的に廃止→箱崎線代替となってしまったことで、中途半端な位置づけとなってしまった現西鉄貝塚線。地下鉄箱崎線が開通した1980年代から、アイランドシティへの鉄道乗り入れ構想に組み入れられるなど長年検討が進められていた、地下鉄箱崎線との直通計画についても、基本的に西鉄側が消極的だったこと、貝塚駅を挟んで輸送力に差があることから、直通方法や乗り入れ区間、両数など市を中心に様々な検討が行われてきましたが、B/Cの低さから事業化に踏み切れず、結局霧散してしまったようです。
西鉄としても、貝塚駅まで200円程度しか収入が得られないのであれば、都市高速経由で天神まで送り込んで4~500円程度の客単価の路線バスを走らせた方が得策というのも分からないではないですが、ここも七隈線と共通するような、連携の悪さを感じさせるエピソードだったりします。
競争による高い利便性の確保
まぁ、このように地下鉄と西鉄、そしてJRが緩い協調状態を保ちながらも、競争で乗客を獲得してきた結果、都市への人口集中と相まって、高いレベルでの複数の交通サービスが提供されているので、福岡という都市にとっては結果オーライではありますが、今後さらにバス運転手不足が進んだ時に、西鉄バスの高い利便性がどれだけ維持されるかというところは気になります。JR九州も値上げが進み、初乗り200円と地下鉄に近い水準となっている他、福岡近郊でも減便が行われており、限られた交通サービスの資源を協調して効率的に維持して良く必要があるでしょうね。
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