富谷町長選に思う
2016年に市制施行が予定されている富谷町。仙台市のベッドタウンとして町制施行当時の人口5000人から10倍に人口が増加し、今年の国勢調査で市の基準となる5万人越えが確実です。
その富谷町の町長選挙が日曜に行われ、ほとんど似ている名前同士、親戚同士の対決という面が当初クローズアップされました。漢字でも、ひらがなでも1文字違い。住んでいる地区も同じ。親戚同士の仲間割れみたいな面がありながらも、それ以外の候補者が出てこないというのが、新興住宅地が大部分を占めながらも、1割に満たない旧来の5000人の層が町を支配しているということか。
ちなみに、選挙結果は
当 9812 若生裕俊(わこうひろとし) 無新
8726 若生英俊(わこうひでとし) 無現
で、選挙前はあまり意識していませんでしたが、当選した裕俊氏。公約にて、
「仙台市営地下鉄の富谷延伸!」
を掲げていたとのこと。それが、富谷町民の琴線に触れ、「現実的には無理」という判断を下していた現職が敗れる結果になったとか。
(河北記事から、それぞれ抜粋)
裕俊氏は、前町長の故若生照男氏の長男。町政刷新を求める住民団体「新生とみやを考える町民の会」の要請で立候補し、仙台市地下鉄南北線の富谷延長などを公約に掲げた。自民党の国会議員らが連日応援に入り、急速に支持を拡大した。
「やられた。富谷町民の潜在的な願望である地下鉄延長を争点にされたのが大きい。論破を試みたが、相手の土俵に乗る形になった」。現職若生英俊氏の陣営幹部は敗戦後、支持者の去った選挙事務所でうめいた。
候補者が夢を語り、住民が夢にかけるのは、いい話に思えますが、そもそも仙台市営地下鉄の延伸を「富谷町の町長候補者」が公約にする。
仮に、仙台市の北端の泉が丘や明石南まで線路が伸びているのであれば、まだ分かるけど、泉中央までしか伸びていない現状では、変な話。
というか、ありえない話。訳が分からない話。
宅地開発の変遷
富谷町での宅地開発は、地下鉄開業前に富が丘や、東向陽台などで始まったのですが、両地区とも旧泉市とまたがった開発(泉が丘ー富が丘)、(向陽台-東向陽台)として、抱き合わせ販売のような開発がきっかけ。そのほか町北部の古くの町の中心近辺でひより台、あけの平やとちの木台(サニータウン)などの開発がありながらも、本格的に開発が始まったのは地下鉄が八乙女まで開業した1987年、泉中央に延伸された1992年を見据えた時期。
泉中央のターミナル・商業機能が充実し、そこからバスで15分という立地条件は、泉区の住宅団地が軒並みバブル期に高騰した際に、割安感を感じることができ、また、大店法の大店立地法への改悪により、ジャスコ(現イオンモール)富谷・カインズホーム周辺の商業集積、さらに泉区との境界部で鹿島が参画した泉大沢区画整理にて、超巨大型専門店群の集積が進み、「車があれば、なんでもできる」という利便性を手に入れたことも、21世紀になってから人口増が続いた理由です。
富谷町の発展は、町には通ってなくとも泉まで地下鉄が伸びている故のメリットを享受しており、泉中央駅のバス利用者の半分は富谷町方面。泉中央の賑わいは富谷町民が生み出しているといっても過言ではありません。
あの泉中央駅のエネルギッシュさは好き。
通勤の便の悪さ
ただし、仙台市中心部への通勤を考えると、
泉中央駅から地下鉄乗ってしまえば、勾当台公園まで12分、仙台駅まで15分と、混雑しているにしても、時間も読めるし、早いもの。
しかしながら、その泉中央駅までバスで15~30分もかかるエリアが大部分。本数も多いとは言えない。仙台市中心部から1時間コースなので、JR沿線だと亘理、大河原、鹿島台などのエリアからの所要時間の方が短い場合もあり。
4号バイパスや、将監トンネルの大渋滞により、毎朝バスで地下鉄までたどり着くだけでヘトヘトです。
仙台にいながら、東京並みの疲れる通勤を強いられている富谷町民。
そりゃ、「地下鉄延伸」という甘いささやきに飛びつきたくなるのも分かります。その住民の皮膚感覚から、新町長は公約に入れたのでしょう。
延伸の実現可能性
そもそも、仙台市営地下鉄の延伸を富谷町がどうすることもできません。
仙台市としては、市営地下鉄としては、南北線に続き東西線の開業を控え、また東西線の経営が厳しいことが予測されており、新たな延伸なんて考えられない状況。全く余裕はありません。
東西線も30年来の東西交通軸構想(仙石線の延長、モノレールなどの組み合わせ)からなんとか開業にこぎつける段階になったのに、南北線の延伸を隣町の町長が頼み込んできても、ほいほいやるわけない。
富谷に延伸するくらいだったら、自市域の泉パークタウン方面に伸ばすだろうよ。それももうとっくにありえない話になっているのに。
「ライトレール(次世代型路面電車)による、仙台市営地下鉄南北線の富谷延長」という、新町長の公約についても、矛盾だらけで、わざと勘違いを招く表現にしたと感じます。
- 少なくともライトレールと地下鉄の相互乗り入れは不可能(車両の高さが異なる)
- よって、乗り換えが必須なのに、「南北線の延長」という表現で、あたかもそのまま地下鉄が伸びるかのような理解をされている。
- そもそも仙台市の協力が得られないから、県の協力が必要。しかし、県が単一自治体のためにやるのは無理。
- やるとしたら、地下鉄の延伸・相互乗り入れ扱いで、通常型の鉄道による吉岡付近までの延伸(三セクにより別料金)しかありえない。それも単線にして工事費を節約するなど。それで10~20年の年月が必要。
- LRTを走らせる道路がない。あっても車線をつぶしてというのは、住民の理解が得られない(可能性があるのは、将監トンネル~明石台~成田位)。
- LRTが広大な富谷町の団地全域をカバーできるわけではない。下手したら、バスーLRT-地下鉄の3重乗り換えを強いられることになる。だったらバスで泉中央まで直通できた方が早くて安い。
高速バスの活用
黒川郡方面で、北部中核工業団地までの鉄軌道の延伸運動がありますが、そもそも北部工業団地までの公共交通需要は、現時点で1日6往復の高速バス(仙台ー加美線)のみ。
個人的に考える、手っ取り早くできる、北部工業団地への公共交通アクセスの改善策は、大衡ICへの高速バス停設置。
古川行や築館、一関行きの高速バスがひっきりなしに東北道を通過しています。宮交の古川行などはちょっと北側の三本木バス停で客扱いをしていますが(1日18往復程度)、同様に大衡ICに高速バス停を設置すれば、トヨタのエンジン工場がある第一中核団地、トヨタの本社工場がある第二中核団地のちょうど中間にあり、そこにタクシーが待機していれば、各工場への来訪者の足は確保できるし、通勤者用に活用するのであれば、ワゴン車やマイクロバスなどを各企業で活用して、二次交通を確保するなどという方法があります。
現在は、仙台駅や泉中央駅から、タクシーでの訪問が多く、タクシー事業者にとってはドル箱ながらも、やはり安価な公共交通機関の確保が、既存の路線の活用により少ない投資でできるので、他の手法と比べると、費用対効果は高いと思います。
大衡ICのバス停からは、仙台駅まで45分程度でのアクセスが可能となります。
惜しむらくは、IC整備時にやってしまわなかったことですが、同様の方法は成田や泉大沢の付近の東北道沿いでも可能。
いきなり鉄道整備という実現性の低い夢に飛びつく前に、できる改善策を提案する方が良いのではと思います。
人口減の中での郊外住宅開発
泉パークタウン(仙台市泉区)の第6期の造成が開始されるとのことで、ほとんど根白石の集落に隣接する場所に2020年度までに宅地が整備されます。詳しくは、追って別記事にします。
現在5万人を超え破竹の勢いで成長している富谷町でも既存住宅団地は高齢化が進み、新規の開発の余地もなくなってくると新住民の受け皿が不足し、成長が止まることになります。
そもそも、人口減少は仙台都市圏でも例外ではなく、震災後の社会増が止まると、残されるのは自然減と人口減の現実。
その中で、より郊外に新たな鉄道整備で通勤圏を拡大する必要はなく、既存のインフラを活用し、新駅設置や旧市街地内での空地の活用などで、十分住宅需要はまかなえます。
そういう中で、富谷町(富谷市)の立ち位置というのは難しくなってきます。県内の市の中で唯一鉄道駅がない市になりますので、持続的な発展を考えると鉄道が欲しいというのは分かるけど、そもそも鉄道がない分安い土地に惹かれて引っ越してきた方が多いことを考えると、わざわざ鉄道を整備する必要性があるのかなと思う次第。
4年後の市長選までに、初代の市長がこの公約に対して、どのような道筋を付けられるのかが楽しみです。何か策があったりして。
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コメント
新し目の住宅地の富谷住民です
今回の選挙は予想外でしたし、周りの人達も「夢物語当選」にびっくり。
・公約の財源根拠がまったくない
・自分 国会議員、県知事とお友達だから可能
等々ツッコミどころ満載だったのですが。。
夢を見た富谷町民が多かったのか、お友達党票が大量に入ったのか。
前町長のパワハラ等頂けない点も多かったのは事実ですが、それ以前に「嫌い」だからと
議会を進めない町議員もいる富谷町議会に不安しかありません。。。。
投稿: | 2015年2月11日 (水) 09時35分
新興住宅地の住民が大部分なのに、地元の町政に無関心な結果、旧来の住民が牛耳っているようにかんじますね。それは、議員も同様。でも、交通の便意外に不満を感じてないからなのでしょうか。
市に相応しい行政を展開できるのかというと、ちょっと期待薄です。
投稿: S-Watcher! | 2015年2月14日 (土) 00時30分
はじめまして。
「富谷町議会ウォッチ」というブログを書いている者です。
S-Watcher!様の富谷町長選についてのご意見は全く同感です。
当ブログでもこの件について記事を書いておりましたので私のブログでご紹介させていただきました。
実は新町長若生ひろとし氏の公約はこれだけではなく、もっとお金のかかりそうなことがたくさんあります。
富谷町の場合は議会もひどい状況になっています(詳しくは私のブログに書いてありますのでご関心があればご覧ください)。
今回の新町長を熱心に応援した議員が多数派を占めており、彼らは当然公約に賛成しているのですから、公約実現のための議案提案がなされたら賛成するしかないでしょう。そのため、富谷町は財政破たんへの道を着実に歩んでいるといえます。
富谷町は人口が増加しましたが、今の富谷町の政治家を見る限り、富谷町民が政治家を選ぶ目は大変幼稚です。
つくづく仙台市がうらやましいと思っております。
投稿: tomiyagikaiwatch | 2015年2月14日 (土) 09時59分
>>tomiyagikaiwatch さん
コメント及び、丙記事をブログ内でご紹介いただきありがとうございます。
富谷町政については、これまでは新聞上でたまに見聞きする位でしたが、
結構大変なことになっているのですね。大部分の無関心な新住民(言わば 仙台市富谷区民)に付け込んでこんなことになているのであれば、現状を変えるべくの啓もう活動お疲れ様です。
どんな悪い首長(くびちょう)でも、4年で審判を受ける(逆に4年間は耐えなければならない)という大統領制の良いところ、悪いところ両面がありますので、町政への関心を次回選挙までの4年間で高めて良ければいいですね。
投稿: S-Watcher! | 2015年2月15日 (日) 20時38分
お久しぶりです。htsです。
で前もかいたかもしれませんが私は元富谷の住人なのでこの記事が他人事に思えないんですよね。
でまず宅地開発だけど富谷が主導で行った初期開発組は貴方があげたあけの平やひより台だったりします。
いうまでもなく富ケ丘と東向陽台は旧泉市が主導で行ったわけで…。
(ちなみに向陽台・東向陽台は合併前の仙台市も横槍をいれたらしく当時仙台市外でありながら最初から都市ガスになったのはこのためらしい…)
今でこそ団地の開発はその市町村が行うのが当たり前ですが昔はそうでなかったというわけで…(泉区の初期団地である黒松、南光台は当時の仙台市が開発だしね)。
前置きはこれくらいにしてこのため富谷の住民って3つの層に分かれるんですよね。
具体的には
1.旧住民…旧市街地
2.新住民(富谷派)…あけの平、ひより台、ハーモニータウン、パルタウンect
3.新住民(仙台派)…富ケ丘、東向陽台、明石台ect
(ガーデンシティは2か3か不明。おそらくは両方の要素を持ち合わせていると思う)
で3者がそれぞれあまり仲が良くないというか…。
後、今更ながら平成の大合併時に黒川市構想に反対したのは富谷なんだそうで…。
まあ実質大和に吸収されるようなものだからねえ…。
もし黒川市になっていれば北部工業地帯がある吉岡、大衡に旧富谷の住民を引っ張ることはできたかもしれなかったんでしょうけどねえ…。
最後に富谷市の最大の問題点は市の核が見当たらないという点で…。
投稿: hts | 2015年3月31日 (火) 23時33分
>>htsさん
返信が遅くなり済みません。
富谷町の住民層の分析、なるほどです。
新興住宅地にはよくある話とはいえ、3つにきれいに分かれていますね。
合併が破談になった構図。どこかに似ているかと思ったら、柴田市構想の破談と瓜二つ
行政の中心 大和町=大河原町(当時2万人規模)
人口も多く仙台に近い 富谷町=柴田町(当時4万人規模)
工業団地の中心だけどおまけ 大衡村=村田町(1万人規模)
大郷町は。。。
黒川の場合は、それほど熟度が高まらない段階で破談になった印象です。
成就していた場合でも、一体感のなさは変わらなかったのでしょうが、市として機能させるには、合併していた方がよかったでしょうね。
柴田市については10年前の過去記事が。
https://sendai-watcher.cocolog-nifty.com/blog/2005/02/post_2b30.html
投稿: S-Watcher! | 2015年4月19日 (日) 00時48分
ちなみに本当に富谷以外の宮城県内の市はすべて鉄道が通っているかどうかを検証すると(ただし乗り入れはカウントしない。()はBRT路線。[]はJR以外。)
仙台…東北本線、仙山線、仙石線、東北新幹線、[仙台市地下鉄]
石巻…石巻線、仙石線、(気仙沼線)
気仙沼…(大船渡線)、(気仙沼線)
大崎…陸羽東線、東北新幹線、東北本線
白石…東北本線、東北新幹線
塩竈…仙石線、東北本線
多賀城…仙石線、東北本線
名取…東北本線、[仙台空港アクセス鉄道]
岩沼…東北本線、常磐線
角田…[阿武隈急行]
東松島…仙石線
栗原…東北本線、東北新幹線
登米…東北本線
確かに他は通っているみたいですね。ただ栗原は面積の広さ(800km^2)の割に本線、新幹線ともに1駅のみと実質は通っていないようなものですけどね。
投稿: hts | 2015年10月 9日 (金) 00時47分