あすと長町復興公営住宅をめぐる日照問題
被災して県内各地及び福島県からあすと長町の仮設住宅を仮の住まいとし,最初は「こんな不便なところ」「地元に戻りたかった」とか,非難囂々で,市内最大規模の仮設住宅がなかなか埋まらずない状況だったのが今では信じられない状況ですが,あすと長町のスーパー,IKEAを含む店舗等,集客施設の立地も進むにつれて,1戸あたり2200万円上限という買取価格の制約から,当初はあすと長町内の建設は想定されていなかったところ,住民団体が強く市に要望した結果,民間建設の買取型復興公営住宅として,3事業者があすと長町内への建設に名乗りを上げ,結果的に地下鉄南北線沿線南部の買取枠を独占する形で,ここと,TSUTAYA北側,太子堂生協南側の3か所が選定された経緯がありました。
「安住の地」がタワマンの谷間 復興住宅、日照1時間も
街の発展を誇示するかのようなタワーマンション群の谷間に、仙台市の復興住宅が建つ。昼間もほとんど日が差さない室内で、高齢の被災者は「安住の地のはずだったのに」と不満を募らせる。行政は「商業地で日照が確保できないのは仕方ない」の一点張りだ。震災復興の「光と影」を、太白区あすと長町に見た。
JR長町駅から徒歩数分。大通りに面し、目の前にスーパーがある至便の地に、13階建ての「あすと長町復興公営住宅」(163戸)はある。 被災者の入居が始まったのは2015年4月。掲示板に貼られていた近隣工事の案内に、気付いた人はほとんどいなかった。南隣、24階建て345戸の分譲マンション計画だ。高さは倍の80メートル。工事はその秋に始まった。 翌16年12月、今度は東隣の(以下略)(朝日1/23)

それが,現在では,この密集具合(北側IKEAからの写真ですが,西側以外は完全に高層マンションに囲まれています。

このような状況になった理由
このブログでも,たびたび言及していますが,当初仙台市に買取を申請した際はワールドアイシティ単独の計画で,復興公営住宅の場所は変わらずとも,南側は低層の郊外型商業施設で,さらに南側の公園に面したところが14階建て70戸と,公営住宅と高さは同程度ながらも,戸数は半分以下と公営住宅に配慮した計画でした。

ところが,災害公営住宅が完成し,仙台市が買い取り入居した後に,計画されていた商業施設敷地を含む形で野村不動産をパートナーに南側の分譲マンションが70戸⇒345戸と約5倍の規模に計画変更となった訳です。

仙台市にとっても,住民にとっても寝耳に水という感じで,流石にこれだけの高層建築物が建つ際には近隣住民対象にポスティングで案内があり,説明会を開催するはずですが,実際に建物が建ってみないと実感できなかたというところなのでしょうか。
しかし,今から考えると,分譲マンションが70戸から5倍の戸数に増やせるというのが,もともと商業施設部分は低層で容積率を食わない開発を想定していて,その分を一気にマンション用に供したためというのはわかるにしても,出来レースの確信犯的な匂いも感じます。手際が良すぎる。 それも地元デベと超大手デベが組んで,冷徹な被災者いじめを合法的に行えたのも,商業地域だったからこそ。仙台市とデベとの交渉の経緯は詳しく分かりませんが,仙台市側が所有者として被害者という側面がまず大きいというのは,住民は嫌だったら出ていけるけど,その不良債権的な公営住宅を今後30年にわたって管理していかなければいけないところ。それなのに,市が強く出れないところが,日照権が確保されない商業地域に計画された点。
もちろん,市側の見通しが甘かったとか,「商業地域に建てさせる判断をしたのがそもそも間違い」とか,ナンボでも言えるけど,「あすと長町に住みたい」という仮設住宅住民の運動から,なるべく地区内で戸数を確保すべく,限られた予算で努力して採択した結果,日照を確保できる当初計画を裏切られたということで,仙台市としてはこれらのデベに対して,損害賠償を請求したくなる案件。
個人的な思いとしては,多少戸数を増やすにしても,大通り向かいの洋服の青山の土地(ヨーク南側,仙台PIT東側)も同デベが所有していたので,そっちにも150戸規模の分譲マンションを建てて,復興住宅の前に予定通り低層型商業施設(青山含み)を立てた方が総戸数も確保でき,関係するマンション,公営住宅の日照もある程度確保できるwin-winだったのに。狙いは住友不動産のシティタワー1の日照を奪う嫌がらせというのもあったのかと邪推せざるを得ない。
しかし,その嫌がらせをされたシティタワー分譲主の住友不動産とワールドアイシティがJVで復興住宅東側の「シティタワーあすとレジデンシャル」を事業化しているというのも本当にわからない。あすとレジデンシャルも,南側低層階の日当たりが極端に悪く,3000万を切る目玉価格で分譲しているなど,お互いに苦労してしまっている誰が得したんだろう?というこの構図(写真はナイスのマンションの陰に隠れるあすとレジデンシャル南側の工事中写真)。

損していないのは公園前の最高の立地の分譲に食い込めた野村不動産だけか。野村の販売力がなければ,ワールドだけでは345戸の事業化はできなかったし。
なお,同じく南側のナイスの西側は,ワンパークが南側に寄せて建てたおかげで,午後の2時位から日陰になってしまっています。ここも当初は南西角で日照が確保される前提で購入したんでしょうが,ワンパークの犠牲になっているのが本当に気の毒。

今後,これらのデベと市との協働での開発案件というのは心情的に難しくなるのではと。自らの利益重視でこんなことをやらかしてしまっては,市は性悪説で動かざるを得ないでしょう。
今後期待する面は
ただし,市が被害者という側面で上の記事は書きましたが,ただ,その根本的な原因は環境アセスや「杜の都」景観計画の悪い面がでているという,市として自業自得の面があります。 この地区は大通り沿いは45m制限ですが,奥側は本来であれば高さ制限はなく,ただし,アセスで100mを超えると面倒であることから,80~90mに抑え,その分壁ビル・デブビルの集積になってしまっていることから,高さを抑えても景観上・日照上相互に悪影響を与えるだけになっているという,最も悪しき見本みたいになっています。
もちろん,事業者側としても,事業採算性から規制がなければこのあすと長町で40~50階建ての超高層マンションが建てられるわけではないにしても,デザインや日照の観点からもっと工夫する余地ができたかと。
先日プラタモリで取り上げられていた武蔵小杉なんて,10棟前後の40階以上の超高層マンションが林立し,10年間で1.5万人(あすと長町の高層マンションの3倍の人口規模)の人口増とのことでしたが,結構密集している範囲に立ち並んでいるにも関わらず,それほど景観の圧迫感がないように感じたのは,高さとデザイン性もあります。 仙台駅前の再開発にも大きく影響する話ですが,環境アセスの条件を
「高さ100m以上or延べ床面積5万平米」
↓
高さ100m以上and延べ床面積5万平米」
別に高層ビル万歳の人間ではないですが,純粋に街づくりに興味がある人間として,こんなアセスの負の面を集めたような,醜態だらけの集積をみせつけられると,本当に嫌気がさしてきます。負のストックを作るためにアセスや条例が存在するわけではないでしょうと。もったいなさすぎる!
住民の立場
住民にとっては,あすと長町の3か所の公営住宅の中で,公園にも近く,ヨークベニマルや計画中のイオンタウンも長町駅も近い最も立派でシンボル的な場所に応募して当選したのにとの思いがあるんでしょう。
仮に残り2つの方を選んでいれば,太子堂の積水の方は生協が北側で南側は戸建てで日照の心配はいらないし,太子堂駅も近い。

TSUTAYA北側も電車の騒音はあるけど日照の心配はないし,長町駅やヨークタウンから近いので,こちらも問題はない。

一人負けで運が悪いという感じだろうけど,本来であれば仙台市は10~15万の家賃で貸したい立地(周辺マンションの相場はそれくらい)に数万で安く住めるというメリットもあるから,日照や光熱費などの負担増は我慢するしかないのだろうなぁと。また,この状況が嫌であれば,他の日照条件が良い2か所の公営住宅に引っ越すという手もあるのでは。入居者が亡くなったり,様々な条件で空き家も出てきている状況なので,そういったケアは可能な限り行ってあげた方が良いかも。本当にもやもやする案件です。
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コメント
受忍の範囲であるって、誰が決める事なんだよ。
仙台市の責任逃れもいいとこ。
結局自分達に落ち度はないと言わんばかり。
どう考えても、この建て方に落ち度がないなんてあり得ないだろう?だから、全国的に取り上げられてるのに、まだ気づいてない。
投稿: | 2019年5月28日 (火) 08時00分
乱暴なコメントに対してのコメントはあまりしたくないですが,
建てたのは某デべ。建てた時点で日照を含め計画も問題はなかった。
公営住宅を仙台市に買い取ってもらってから,
目の前の土地活用を脱法すれすれの計画に変更してこの状態になったのですが,
仙台市に何をして欲しいのでしょうか。どこが悪かったのでしょうか。
投稿: SENDAI Watcher! | 2019年5月30日 (木) 21時30分
ここを第一希望で数回応募したものの落選し、現在他区の公営住宅に入っている者です。最初の募集がかかる前に「長町は競争率がとても高い、期待しないほうがいい」と市の関係者から聞いていました。それでも立地条件が良く引越し距離も短いのであわよくばの思いで応募しました。当時は公営住宅周辺が更地だらけだったので建設計画や業者をネットで調べ(こちらのサイトがたいへん参考になりました)、特に日照に問題がないか納得した上でした。落選した時は残念でしたが今となっては皮肉なものだなと思っています。
「他の公営住宅に引っ越すという手」ですが、公営住宅間または建物内の引越しは認めません、と契約前の書類に明記してありました。市が例外措置を講じない限り出て行くしかないのでしょうね。
投稿: | 2019年6月16日 (日) 08時57分
コメントありがとうございます。
詳しい裏情報,参考になります。
あすと長町の中心で,最も居住環境が良いと思われたあの公営住宅が,
このようなことになってしまったのは,本当に皮肉ですね。
そもそも,某デベロッパーにとっては予定調和だったのでしょうが。
>「他の公営住宅に引っ越すという手」ですが、公営住宅間または建物内の引越しは認めません、と契約前の書類に明記してありました。市が例外措置を講じない限り出て行くしかないのでしょうね。
そうなんですね。仮に例外として認めてしまうと,歯止めが利かなくなりそうですし。
本当にもやもや案件です。
投稿: SENDAI Watcher! | 2019年6月18日 (火) 22時01分
安い賃料で住んでるのだから仕方ないのでは?賃貸でも10万以上するとこに1万前後〜で住んでるのだから日照くらい我慢するべき。日当たりの良いとこに住みたいなら、シティタワーとかに引っ越すしかないと思う。安い賃料で、立地、環境、日照を求めるのは、おかしいと思う。
投稿: | 2019年6月29日 (土) 19時21分
コメントありがとうございます。おっしゃることはごもっともだと思います。
一般的には,弱者の立場で,そのおかれている環境を改善するためにマスコミなどを味方につけて,
陳情や働きかけをすることで,支援者を集めたり,行政を動かしたりということは,よくあることです。
今回のは,それの震災の被災者版です。もちろん,行政等が気づかない問題に対し,支援を求めるのは自然なことではあります。
ただ問題は,要求基準が上がりつつけてしまうこと。これは人間の欲望は限りないことから仕方ないんですが,「あすと長町にみんなで住めれば良い」だったのが,いざ仙台市の尽力と配慮であすと長町に住めることになると,次の要求のハードルを設定しないと,皆が一枚岩になれない。
今回は裏切った事業者が原因となった日照問題で気の毒ではありますが,原因者を突き上げてもどうしようもない(合法なので)ことは分かっているので,ターゲットは要求しやすい仙台市となり,それをマスコミがネタとして取り上げる(問題は事業者だとわかっていても,広告主であったりするので,それは取り上げない)から,住民は味方が増えた・理解が得られたと勘違いしてしまう。振り上げた拳を下すことができないという構図に感じます。
今回の件で,違和感を感じるのは,そういう構図が分かっているのに,表立って事業者が批判されることなく,仙台市もやるせない気持ちで対応しているんでしょうし,結果的に「住民がかわいそうorわがまま」というどちらの見方がされるにしても,どうすれば良いのかという解決策が見えてこないことかなと思いました。それに,一部の住民の意見が皆の総意に見えてしまうということから,全ての住民を批判するべきではないでしょうし。
なお,立地条件を変えずに日照を求めるのであれば,仮にシティタワーなどに引っ越しすればといっても,3~4千万円を払っても時間によっては目の前のマンション等の陰になってしまい,日照や眺望が十分に望めない部屋も多いと聞いているので,この件での勝ち組は,逃げ切った某デべのみでみんな痛みを味わっている状況なのが,なおさら歯がゆいところです。
投稿: SENDAI Watcher! | 2019年6月30日 (日) 13時03分