仙台空港民営化に向けて
仙台空港が平成28年4月度からの空港民営化第一号に選定されることが決定し、徐々に概要が見えてきています。
県側の準備としては、第三セクター2社(空港ビル、エアカーゴターミナル)の全株式を、参入を希望する民間事業者へほぼ額面通りの約57億円弱で有償譲渡とのことで、この金額については、建設費および直近決算期の収益(計約5億円強)を考えると、ちょっと安いのではと思いながらも、民間事業者の収益性を高め、一体で管理する滑走路の離着陸料金の値下げ原資にしてもらうためには、べらぼうに高い株式譲渡金額を設定するわけにもいかないという、「損して得取れ」の精神で、大局的な観点から設定したのでしょう。
コンセッション期間は基本30年+30年の延長可(不測の事態はさらに5年)で、最大65年の運営が可能とのこと。65年先なんて、先が全く想像できません。
アクセス鉄道の扱いは
県側が希望していた、空港アクセス鉄道(三セク)も加えた一体経営については、事業者が希望すればという条件付きで認められる可能性が出てきたようです。
ただし、事業者がアクセス鉄道の運営を希望した場合でも、運賃の値下げは裁量でできるにせよ、運行本数の増加やダイヤの改善については、相互乗り入れ先のJR東日本の意向に最大限に配慮しないと、ことが進まないことは変わらないのではと危惧するところ。空港の利用者が増えるということは、仮に新規の需要喚起で生まれたものであっても、ライバルのJRにとって面白くないことでしょうし、本線や常磐線の間に申し訳なさそうに走っているアクセス線の現状からすると、アクセス線を優先してくれるとは思えない。
この民営化により、最低でも年間400万人程度までの乗客数の増加は見込めるところなので、新千歳空港アクセス並みの15分毎は無理にしても、きっちり20分毎になれば、仙台駅からでも空港からでもそこそこ計算できる利便性が確保できるので、その程度は期待したいところ。これもJR次第なんだけど、他地域からの観光客が東北各地へ新幹線で移動するという面もあるから、その利用客の利便性を図るという観点で考えてもらえればと。
民営化のメリット
そもそもですが、
1)民営化による一体経営による効率化
↓
2)空港ビル等の黒字を、離着陸料の値下げ原資に回す
↓
3)LCCなどの路線誘致による乗客増
↓
4)利用者が増えることでの空港ビルの収入増
↓
<以下2)に戻る>
という好循環を期待しているのでしょうが、加えて今回の民営化によるLCC誘致には、LCCキャリアの拠点化(夜間駐機可能)の成功にかかっており、そのためには、年末年始に村井知事が感触を探っていた、「仙台空港の24時間化」が必須。
LCCの拠点化の可能性
意義については、その時の記事に書いているので省略しますが、LCCキャリアにとっては、遅延が発生した際の保険的なもので、門限がある成田の失敗と、24時間空港である関空の成功というのは、LCC業界では当たり前に語られている話。真夜中に日常的に発着するという話ではない。
また、拠点化がなされれば、当たり前ですが、朝早くの仙台空港始発便が開設され、戻ってくる時間も遅くなるので、目的地での滞在時間が格段に増えます。
それは、関空を拠点としているピーチの関空―仙台便がわかりやすく、大阪→仙台の方が、仙台→大阪 よりも目的地での滞在時間が長く、使い勝手が良いです。
LCC拠点化の可能性があるのは、来年日本に再進出する新生エアアジアジャパンと言われています。日本側からは楽天が協力するという観測もあり、そうすると仙台との縁もありますし、期待したいところ。
なお、現在、仙台に唯一就航しているLCCのピーチは関空に続き、東南アジア方面国際線との乗り継ぎハブ機能を構築するために、那覇空港の拠点化を決定していますので、仙台は厳しい模様。
航続距離が短い中型機種を保有しているピーチは、那覇に拠点を置くことにより、バンコク・シンガポールまでのLCC国際線を飛ばすことができ(関空からは無理)、また那覇から全国各地との便を開設し、沖縄への国内旅行需要と、東南アジアへの乗り継ぎ需要を見込むという戦略のようです。
そうすると、主要空港である仙台空港と那覇空港との路線開設の可能性は高いでしょうから、拠点化とは別に期待したいところ。現在ANAの独占で高止まりしている仙台―沖縄便に、スカイマークが夏季限定で参入するというニュースが流れたところですが、距離と運賃から、LCCが参入すると仙台人としては最もメリットが大きい路線かも。
当然、スカイマークにも感謝しています。仙台空港夜間駐機で、朝一9時頃発で、21時に着とのことなので、沖縄での滞在時間が長い。夏季のみと言わずに通年運航を検討してくれないかな。
仙台空港が身近に
従来の、ほぼANAとJALが独占していた時代は、運賃も高止まりし、利便性も大阪便・札幌便以外は便数が多いとは言えず、名古屋便のシェアは東京経由の新幹線で行った方が安く早い場合が多いとか、東京との<<新幹線での>>つながりが強い仙台は、九州・四国や北海道と異なり、飛行機自体が身近ではありませんでした。
自分が思うのは、片道1万円程度が、気軽に旅行で行こうと思う価格水準。
仙台人にとっては、東京往復2万円というのが基準なので、LCCだと最安4千円程度からの料金設定だし、ピーチの関空便の成功は当然。
首都圏からだと、当然ですが交通網が東京中心にできているし、飛行機の便も羽田からが最も便利なので、価格的にも飛行機のツアーだと関西・福岡・札幌などは、通常キャリアでも1泊往復で2万円からが標準でした。仙台からでは一番安い伊丹・札幌でも1泊往復で安くて3万円からで、福岡などは安くて4~5万。どこにも気軽に行ける首都圏が羨ましいと思ったりします。
昨年から仙台空港に就航した、元祖LCC(的)なキャリアのスカイマークも、概ね最安1万円程度からの価格設定で、これまで高止まりしていた福岡便に就航してくれたのは大きく、札幌、神戸も含め、現状でも以前と比べて十分使いやすくなっています。ただし、まだ本数が少なく、よほど早めに予約しないと、その恩恵にあずかれないところもあり、
国内でもLCCの進出が進んでいるのは、やはり従来から利用者が多い、関空・成田・福岡・新千歳相互を結ぶ便が中心で、これらの路線は複数LCCキャリア+スカイマークが就航しており、競争も熾烈なもので、利用者にとって選択肢が広い状況。
これらの主要空港のレベルにまでというのは当然無理ながらも、仮に新生エアアジアジャパンの第二拠点化が行われれば、成田・関空・名古屋・福岡・新千歳(もしかしたら那覇)という、仙台空港で既存のANA・JAL系が飛ばしている主要路線で一通りLCC路線の就航が期待できることに。
そうすると、現在就航しているピーチ・スカイマークの路線の利用者も、隣県に広がっているところですが(仙台空港までの交通費を入れても、地元の福島・山形・花巻を使うより安い)、その流れが強まりそうです。東北各都市から定時制のあるアクセス鉄道経由で結ばれていることが、確実に空港の価値を上げているといえます。
国際線LCCの可能性
日本のLCCキャリアの国際線を飛ばす動きもある他、中国の春秋航空が地方空港に照準を合わせて(茨城、高松、佐賀)進出しています。こういった国際線の需要喚起も図られる面はありながらも、LCCの飛行機で我慢できるのは4時間以内と言われているので、その範囲内の中韓との関係は急激な改善はないでしょうから、国際線LCCが飛んだからと言え、需要が喚起される可能性は低いかなと。それ以外の台湾、東南アジア方面は距離的に厳しそうですし、最悪成田や関空行のLCCがそれなりの頻度で飛べば、御の字かなぁと。
LCC誘致はバラ色?
なりふり構わぬ利用者確保に向けて、LCC誘致を全面に押し出した空港民営化論議ですが、LCCキャリアも企業なので、もうからなければ撤退してしまう。また路線増でパイロットの確保が困難になっている中、ピーチにて、病欠などでのパイロット不足から、仙台―関空便を含む多くの便で夏季期間中の大規模運休が発表されたのは、ピーチ4往復化に沸いていた仙台空港にとっても、大きなショックでした(実際は増便前の2往復/は確保される模様)
その点、同じ関西エリアの神戸空港へ4月から元祖格安系スカイマークが飛ばしたことは、タイミングが良かったというか、減便の影響を最小限にとどめることになりそう。
LCCでの需要喚起が行われるとはいえ、既存のANA・JALの利用者が減ることから、トータルでの利用者増がどの程度図れるかは未知数のところもあります。
大阪方面・福岡はトータルで利用者を伸ばしており、やはり見どころが多いことと、これまでなかなか行きづらかった面があります。一方、札幌はスカイマークが就航しながらも、既存運行会社の機材小型化もあり、またオフシーズンの長さ(東北人は冬にわざわざ寒いところに行かない)もあり、トータルではそれほど伸びていないよう。通年での安定した利用者を確保できるところは限られています。
そうはいっても、民営化は国内第1号。モルモットとはいえ、仙台空港がこれまでになく注目されるのは間違いなく、利便性は確実に上がり、仙台発だけでなく、東北全体への観光客の受け入れ数も確実に増え、そっちの効果も大きい。なので、この件は失敗できないし、本当に期待しています。民営化に手を挙げる企業も、村井知事が言うように、関空の運営会社みたいなところではなく、国際線を含めて新規路線をバンバン誘致するネットワークを持つところになってくれないと困る。
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