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2005年1月20日 (木)

仙台と広島(市内交通編1:路面電車と地下鉄)


便利な広島の路面電車 

 このように、デルタのわずかな平地に高密度に広がる広島の市街地ですが、それを象徴するものが日本一の路面電車網でしょう(路線図)。なんと、市内均一150円の安さ!(異なる系統への乗り換えもOK)

一日乗車券も600円。

どの路線も、数分おきに電車がやってくる。時には連続で。

これには感動しました。

 路面電車って、一昔前の遺物のようなイメージがあり、全国の大都市では広島と東京・札幌(1路線のみ)を除いて、ほとんど廃止されていますが、最近は、ヨーロッパでの路面電車見直しの流れから、日本でも、市民団体が都心再生の手段として高速路面電車(LRT)の導入に向けての運動を盛んに行っており(ただし、路面電車の導入ありきで、広い視野が欠けている団体も多い)、国レベルでも”路面電車の再生”に向けての路線延長や停留所の整備などに予算措置がなされるようになってきています。

 広島でも、原爆を体験したものや、廃止になった他都市からの中古を購入したような味のあるオンボロも多いですが、最近は新型の低床連接車(3両編成)を導入し輸送力を確保し、都心部のど真ん中を快走しています。広島では、デルタ地形であり地盤が弱いことから地下鉄は困難、充実した路面電車網が発達し、市民に密着していることから、これまで路面電車が公共交通の主役を務めてきました。

軌道敷に車を入れない方針を貫いたこと、経営主体が広電という民間だったこともあり、これまで様々な経営努力を行い、近年は利用者も再増加しつつあるようです。

旧デルタの高密度市街地は路面電車沿線に広がっており、CBD(中心業務市街地)の広がりは仙台が上ですが、周辺の住宅市街地の密度や広がりは、広島の方が断然上でした。延々と路面電車に沿って面的に、高密度な住宅市街地(仙台では北仙台付近が似ている)が延々と広がっていました。

都心部が元気で便利

 広島は、都心部のデルタ地帯を中心に4つの区に分かれています(仙台のように都心と郊外がひとつの区にされているのではなく、都心部の区と郊外の区ではっきりと分かれています。広島方式の方が実情にあっているような気がします)。都心部だけでも4つの区に分けるほど、都心部の人口が多いことがわかります(尚、広島の区割は1つが若林区程度で人口は10万が基準です)。

 それは、路面電車網が発達し、都心部のどこにいても交通が便利であることから、仙台のように極端なドーナツ化減少が起こらなかったものと考えられます。さらに、マンションがあれだけ面的に林立していることから、人口増のあるていどは都心部で受け止めてこれたのでしょう。

また、広島では、軌道系の公共交通機関沿いに、各種公共・公益施設が立地しています。

車でないと行けないところってあまりないと感じました。

県庁・市役所・区役所はもちろん、各種病院、大学・高校・港・球場・コンサートホール・商工センター(卸町の広島版)・商業施設などが、路面電車やJR、アストラム(新交通)沿いに立地しています。

 これって本来であれば当たり前のことなんでしょうが、仙台と比較するとうらやましい限りです。

郊外にも、長町のモール級の商業施設が南西・北・東に位置し、都心を取り囲んでいますが、その郊外の巨大商業施設は全て駅に近接しています(もちろん大駐車場完備)。電車でも、車でもどっちでも行けるっていう素晴らしさ。

市電から地下鉄への転換(仙台)

 仙台では、地下鉄開業と引き換えに、約30年前に市電が廃止されました。

乗ったことはないですが、路線図を見ると、都心を一周する環状線と、枝分かれする長町線、原町線、北仙台線、八幡町線があり、現在の広島に匹敵する路線網だったようです。現在でも、市電が走っていた道路沿いは、仙台都心部の中でも明らかに風格がある市街地を形成しており、かつての市電の存在感を感じます。

 ただし、仙台は、都心部が狭く、高度成長期以降の人口の急増により、市電がカバーしていたエリアより外側での住宅団地開発が盛んに行われ、人口分布が極端にドーナツ化してしまいました(これは都心部に多くの人が住んでいる広島との違い)。

 そうすると市電の営業範囲での人口の減少や車の増加により、軌道敷に車を入れざるを得なくなり、市電の定時性も失われ、邪魔者扱いと利用者数の急激な減少が起こりました。

そりゃ、仙山線北側の住宅団地の住民にとっては、市電は使いようがなく、直接バスで都心に入った方が楽だし、原ノ町線沿いは駅間の短い仙石線も併走、北仙台線と長町線は、泉方面に延びる地下鉄に代替されることで、廃止となったようです。

 ただ、地下鉄がカバーできる範囲は狭く、また駅間の長さ、地下にもぐる煩雑さ、運賃の高さという問題点もあります。

旧市電沿線で、南町通~西公園通、八幡町方面は、地下鉄の恩恵も受けず、沈滞している印象です。

ただ、東西線の開業により、八幡町方面以外は救済されることになるでしょう(本来であれば、都心から八幡町、国見を通って中山方面に抜ける路線も必要ですが)。。

 地下鉄の欠点はありますが、、本数の多さと定時性、速達性は評価すべきです。泉中央から都心まで10分少々というのは、路面電車であれば不可能です。

最新のLRTの導入であれば、電車優先信号や、交差点の立体化により、ある程度は短縮されるとはいえ、路面を走る以上、定時性は保障されません。

都心部を地下にすると、結局地下鉄並みの建設費がかかり、乗降りの煩雑さなど、路面電車のメリットが小さくなってしまいます。

東西線建設に対しても、某市民団体が反対運動を行っていますが、LRTの欠点に目をつぶり、リニア地下鉄方式の欠点ばかりあげつらうような印象で、公平性を感じないところが、支持を得られない理由なのでしょう(市当局の機種選定も公平性を欠いているという反論もあるでしょうが)。

実際にLRTを導入した場合については、広島が生きた手本だと思います。

広島のジレンマ

 広島では、このジレンマに苦しんでいるようです。

確かに路面電車は安くて便利です。ただし、スピードは路面を走る以上、電車優先信号はあるようですが、限界があります。バスより多少ましなレベルです。

広島は、都心部がJRから離れた紙屋町・八丁堀地区で、JRの広島・西広島・横川の各駅から路面電車に乗り換え、都心に向かう形です(路線図再掲

だからこそ乗り換えの利用者が多く路面電車が生き残ってきたのかもしれませんが。

まず、所要時間ですが、都心の紙屋町から、各JR駅までは通常時でも15分程度かかります(地下鉄であれば、5分程度の距離)。

仙台の一番町と仙台駅のように、簡単に歩ける距離というわけではありません。

つまり、仙台の地下鉄に例えると、仙台駅⇔北仙台位の距離を、仙台⇔泉中央と同じ所要時間をかけて走っているということです。 路面電車は乗降が簡単ということを割り引いても、JRターミナルまでの時間はかかり過ぎです。

さらに、朝夕のラッシュ時には、電車が数珠つなぎになり、また、バスと同様で車内精算が原則であるため、都心の停留所では物凄い混雑・混乱を招いていると聞きました。

また、乗ってみてわかったことで、座席が少なく、立つことが多い。これは新型電車の方がさらに席が少なく、詰め込み前提のようでした。

 

 それでも最大3両編成であることで、朝夕だけでなく、市民球場での試合前後などは、乗り切れずに積み残しが発生することがざらにあるようです。

特にナイターの後などは、帰路を急ぐ客が多いと思いますが、JRの駅までたどり着くのに一苦労で、さらに乗り遅れる可能性も高いです。

また、バスと同様で、23時過ぎで終電になります(早っ)。これは、時間がかかることから、概ね24時までに終点につくような設定にしていると感じました。

 このように、大量輸送に限界があることから、大都市交通機関としての適格性の問題もあるようです。

とはいえ、建設費や地盤の問題・民間である広電との兼ね合いから、地下鉄を建設することも出来ず、路面電車を活用することや、新交通であるアストラムラインを延長する方針のようですが、アストラムもゴムタイヤであり、重量制限があること、最高速度が遅いこと、など、建設費の割には効果が薄いという課題もあるようです。

 広島の公共交通は、都心部を網羅する広電、JR、新交通(アストラム)、民間バス4,5社がひしめき合っています。

互いの主体が競争しあうことにより、適度な緊張関係と役割分担がなされているように思えます。

ただし、鉄道については、経営母体も路線の規格もばらばらなため、一貫した交通政策が作りにくく、市の当局はかなり苦しんでいます。

もちろん、JR⇔広電、JR⇔アストラム、広電⇔アストラム 間の乗り換えでは別料金であり、利用者にとっても負担です。

 仙台も、広島も公共交通に関しては、一長一短のところがあります。

 仙台では、都心まで一本の交通機関で行けるというメリットはあります。

しかし、JRと市営地下鉄(それも今は一本)しかなく、バスも市バスと宮交バスのみ。利用者にとってメリットになる競争なんて、ほとんどありません。

どっちがいいのかな?と考えてしまいますが、広島の方が健全な競争が行われていると感じました。

それは、時刻表なしでも10分以上電車を待つことが皆無だったことです(広電も、JRも、アストラムも)。大都市交通機関としてあたりまえのフリクエンシーを確保していることは、素晴らしい!仙台は、まともに使えるのが地下鉄だけだからなぁ。

 

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