大型半導体工場が仙台近郊進出へ 場所はどこに?
昨日の午後から、界隈はこのニュースで持ち切りになっていますが、宮城県内へ大型半導体工場が進出とのこと。
第二地方銀行の連携を推進するSBIホールディングスが資金源となり、台湾では3位の力晶(PSMC)と組んでとのことですが、突然のニュースで驚いています。
台湾半導体、宮城に工場建設へ SBIと、地銀の資金調達
台湾の半導体受託生産大手の力晶積成電子製造(PSMC)とSBIホールディングスが共同で、半導体工場を宮城県に建設する方針を固めたことが27日、分かった。事業規模は8千億~9千億円とみられる。SBIが「第4のメガバンク構想」を掲げて提携してきた地方銀行からの資金調達を検討する。
PSMCは半導体の受注生産に特化した世界有数の企業だ。両社は日本国内に工場を新設すると7月に表明。全国25カ所を候補地とし、現地視察などを通して絞り込みを進めていた。
PSMCと同業の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は熊本県菊陽町に第1工場を建設中で、同県内に第2工場の建設も検討している
(10/27共同通信)。
TSMCで先鞭をつけた熊本
国内では、コロナ禍でのパワー半導体不足による製造業への多大な影響が生じたこと、また台湾有事を見越して、熊本県の熊本市郊外である菊陽町へTSMCを誘致し立て続けに2棟の巨大工場を進出させることで、熊本は菊陽町の周辺自治体を含めて従業員の住居や関連工場の用地確保に向けた争奪戦が起こり、土地価格の2桁上昇が当たり前という局地的な土地バブルが生じています。
経産省が支援するのであれば、熊本だけでなく国内でのリスクやチャンス分散も図って欲しいと思っていながら、同じ会社であれば近接した場所での操業が効率的なのでしょうが、熊本だけに兆単位の支援は不公平だなぁと感じていました。
もちろん、かつて”シリコンロード”と言われた東北に対し、九州は”シリコンアイランド”として、半導体工場が多く立地していたという背景があり、今回の菊陽町のTSMCの建設地に隣接して、ユーザーとなるソニーの半導体工場が立地しているということ、地下水などの水源が豊富であること、そして原発が稼働し、電気料金も安定していることなど、誘致にあたってのメリットが大きいところがあります。
また、現在は長く続く少子化により、若年層の労働力人口が激減しており、昔の企業誘致感覚で数多いる”労働力”を地元に留まらせるというよりは、一定の”技術者”を集めてこなければならず、、何もない田舎に集めてくることは厳しい状況。
なので、街中も元気で都市的な要素が残っている熊本市は70万人といえども政令指定都市であり、菊陽町はその熊本市の近郊で九州新幹線熊本駅から接続する豊肥本線で30分ほどの人口4万人を超えるベッドタウンの街。菊陽町は羽田、そして台北とを結ぶ「阿蘇くまもと空港」に近接し、九州道や八代港という高速交通インフラも比較的近く、地元だけでなく、熊本市や他都市からも技術者を呼んできやすい、そして家族で生活するのにも支障がない都市機能を持っています。
全国に半導体工場進出が拡大
TSMCの第2期も熊本と、不公平感を感じていたところでしたが、従来から立地していた東広島市の米半導体大手マイクロンへの経産省の支援に続き、オールジャパンでの国策会社ラピタスが北海道千歳市への進出が約半年前の2月末に決まりました。
千歳も、熊本と条件が似ているところがあり、200万都市札幌から30分圏で通勤も可能、当然ながら国内だけでなく、国際線も多数就航する北日本最大の新千歳空港に近接、苫小牧港も車で30分、道央道ICも近く。そして水資源も豊富、なにより広大な土地が格安で拡張の余地が大きいというメリットも。電気についても東北電力や東京電力管内よりは余裕があり(非常時の本州からの融通が難しいのがデメリットですが)。
このラピダスの進出先選定の際に宮城県内も候補に残っていたとのことで、残念に思っていたところでしたが、結果的に、今回のSBIと力晶(PSMC)のコラボでの大規模半導体工場の立地として選定されたため、熊本県、広島県、北海道、そして宮城県と、結果的に中核地方都市を擁する4地方にバランスよく立地させ、経産省の支援を受けることになり、良かったと思っています。
なお、”札仙広福”の中で「福岡」の代わりに「熊本」という構図となりましたが、福岡はもともと水資源がネックで、工業は北九州に任せ商業都市に特化した経緯もあり、九州の中のバランスを考えてもベストだったのでは。
仙台近郊の強みとしては、研究開発と人材供給の面で東北大の存在が一番ながらも、世界的な半導体製造設備メーカーのグループである「東京エレクトロン宮城」も大きいでしょうね。また、女川原発の再稼働に目途がつき、少なくとも操業時には管内の電力事情が安定しているという目算も。
仙台近郊のどこに?
今回のファクターとして、報道では「仙台市近辺の工業団地などが候補地」とあり、さらに「仙台」ではなく「宮城」に進出とあるので、仙台市外であることは確実です。
本来、求められる要素としては、熊本の菊陽町や東広島市、千歳市の立地のように、都市近郊の鉄道沿線が望ましい(東広島市は市内に新幹線駅と在来線駅がありながら工業団地は多少駅から離れていますが)ところで、県内の工業団地の分布については、16年前のセントラル自動車(現 トヨタ自動車東日本)の誘致決定時とほとんど変わっていないのが残念なところ。よっぽど、キオクシア(旧 東芝メモリ)が巨大工場を建設している隣県北上市の方が母都市の生活環境が良いというのが。
過去記事: 産業振興(セントラル自動車誘致他 (2007.10.11)
立地場所として理想は、
- 母都市の生活機能が充実
- 大都市(仙台)からの通勤も可能
- 空港近く
- 高速道路近く
- 港が近く
となると、熊本県菊陽町も千歳市も空港の近くなので、それに類するJR東北本線館腰駅周辺の名取市から岩沼市にかけての一帯が立地場所としては全ての要素を満たす最高の立地となります。
ただ、既存の仙台空港南の工業団地に空きがなく、これから迅速な拡張は周りが農地とはいえ農振農用地の解除と地盤沈下対策、アクセス道路の整備などを考えると、2026年には到底間に合わない。そもそもJR東北本線の東側であれば津波浸水地域であり、それをどう評価するか。
立地場所を抜きにして、工場自体に求められる要素は、
1 2026年に稼働可能
2 一般的に20ha以上の敷地が必要
3 第二期の拡張も視野
4 東京エレクトロン宮城に近い方が望ましい
との必要とされる要素から、現実的な候補地は限られています。
【対抗】 愛島台<1◎、2〇、3△、4△>
名取市であれば、空いているのは、愛島台(愛島西部第2期)で20ha程度はありますが、第二期を見越すと新たな造成が必要で土地に余裕はありません。それにどん詰まりの一時期は開発が放棄された住宅団地に、1000名以上?の通勤者が生じることを考えると厳しい面はあります。
ただし仙台方面からのクルマ以外での通勤者の足としては、JR館腰駅まで20分程度でそこから送迎バスを設定すれば20分と及第点。
なにより、アクセス道路は高規格で、空港にもインターにも時間距離は近いという面が。あと水の確保がネックでもあります。
詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)
【本命】第二仙台北部中核工業団地<1◎、2〇、3△、4〇>
トヨタ自動車東日本大衡工場のすぐ近くで、東北道大衡ICにも程近いこの松の平3丁目の区画は20ha以上はありそうです。説明文にも令和7年4月分譲開始に向けて造成中とのことで、ユーザーになり得るトヨタ東日本の各工場にも程近くです。
最も大きいのは、供給能力に余裕がある県の工業用水が団地内に整備され、既に配管が来ていること。あと東京エレクトロンも同じ黒川郡内で、クルマで30分と遠くはないということ。なお、仙台空港や仙台港には多少距離があるといっても、高速道路(東北道ー北部道路ー東部道路)で一直線で結ばれており、それほどネックにはならなそうです。
生活環境については、トヨタ東日本も受け入れた実績があるし、大衡村には何もないとはいえ、富谷市・大和町には一定の郊外型商業施設・住宅団地があり、クルマがあれば普通に生活は可能です。ただ、仙台市方面からの通勤は泉区からが限界であり、トヨタ系に加えての大規模半導体工場立地となると、追加の交通渋滞対策が必要となる点がやはり気になります。現在でも、ラッシュ時には双方向の激しい渋滞が発生していますし、
そうなると、これも以前から主張していることですが、隣接する東北道大衡ICに高速バス停留所を設けて、そこからマイクロバスなどで各工業団地の企業にフィーダー輸送ができないものかと。既に通過している古川・栗原・登米市方面の高速バスを停車させるだけだし、特に宮交の古川線は北隣の三本木で客扱いしているので、小さい投資で利便性が確保されることになるのではと。
北部工業団地のIC設置構想 (結果的にETC専用ICではなくフルICとして整備されました)
現在でも大衡村役場までは平日10往復の高速バスが発着していますが、通勤には使えない時間帯の運行である一方、東北道の北行きバスは既に古川や栗原、登米市方面への通勤用で仙台朝7時頃発の便が設定されているので、このような交通対策が講じられると良いのかなとは思うところ。
詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)
【穴】松島イノベーションヒルズ<1〇、2◎、3△、4△>
面積が27haと意外にあります。三陸道の松島大郷や松島北ICからすぐで、仙台港や仙台空港へも高速道路で20~30分圏、そして、JR東北本線の愛宕駅から1kmと、比較的広域からの通勤が可能である立地です。ただ母都市である松島町は観光都市で、ベッドタウンとしての生活機能が弱いところがあり、その点大崎市鹿島台や塩釜市、利府町など周辺都市に依存することになります。
また現在でも利府街道や国道45号など一般道の整備水準が弱いことから、インフラ面で不安はあります。
そもそも、造成が間に合うのかと思って居ましたが、一応説明文には令和6年供用開始を目指しとあるので、現在進行形で進んでいるのかもしれません。
沈滞気味の松島町や塩釜市、鹿島台方面への東北本線沿いへ好影響が想定され、また仙台市内からの鉄道通勤も可能な距離であることから、人材確保にはプラスと考えられます。県のバランス良い発展のためには、黒川地区に誘致企業を集積させるのではなく、開発規制が強すぎてこれまで産業面で日の当たらなかったこの地区を推しています。なお、松島北IC付近には東京エレクトロン系列の事業所が大和のテクノヒルズ進出以前から存在していることも、あり得ないことではないと思った理由でもあります。
詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)
【番外編】成田二期北(富谷市)
最初、100ha以上あり拡張し放題のここが本命では?と思いながらも、調べてみると、区画整理でまだ環境アセス中。造成はこれからだし、南は北部道路、西は東北道に面し、幹線道路から全てこれから整備となると、10年後だったらともかく、ここは無理と感じました。とはいえ、工場拡張の際に土地がなければ、第二期開発には間に合うかもしれません。
その他、東京エレクトロン宮城が立地する大和町のテクノヒルズも土地があれば大本命になるところ、既に空き区画は東京エレクトロン宮城が抑えており全て完売済であることから、ここもないだろうなと(拡張用地として東エレ取得済の土地を譲渡することはないでしょうし、そもそも11haしかない)。
仙台圏以外で、高速交通網が整備されているところであれば、白石市にも新IC近接で造成中の「仙台南部工業団地」もあるし、母都市となる白石市への好影響もあり、仙台からの通勤も可能と、良い立地ではありますが、「仙台近郊の工業団地」という表現から、厳しいかなとは思いました。
やはり、第二仙台北部中核工業団地か?
なにより、造成済でトヨタと近接、東京エレクトロン宮城とも遠くない、そして県の工業用水がふんだんに使えるという要素が大きいかと思いました。全国の25か所から選定されたということであれば、ここが一番強みを持つことも納得できます。正式な発表を待つこととします。
(あとがき)
なお、先日の県議選の争点でもあった、村井知事が進める富谷への病院移転の背景として、この巨大工場誘致もあるかもしれません。黒川エリアに総合病院を誘致し、黒川エリア一帯の生活環境を底上げし、居住エリアとしてのイメージアップを図るという理由で。
先日の村井知事と郡市長との論争を聞いて、
「鉄道沿線外でクルマ依存型のこのエリアに大病院を整備しても患者も医師・スタッフが集まらず、そして将来的な高齢化と人口減は否めず、仙台ではなく富谷に移転した方が将来的に病院の経営が行き詰るのでは」
と感じたところでしたが、黒川エリアへのさらなる企業誘致で人口増をもくろんでいるのかもしれません。まぁ、移転先の市長と既に話がついているような移転の進め方については違和感を拭えませんが、移転する法人(病院)の判断もあり、ここまで反対運動が広がるとどうなるのでしょうね。
※ 細部の表現を修正、及び一部加筆しました(10/29)
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