2023年10月28日 (土)

大型半導体工場が仙台近郊進出へ 場所はどこに?

 昨日の午後から、界隈はこのニュースで持ち切りになっていますが、宮城県内へ大型半導体工場が進出とのこと。

 第二地方銀行の連携を推進するSBIホールディングスが資金源となり、台湾では3位の力晶(PSMC)と組んでとのことですが、突然のニュースで驚いています。

台湾半導体、宮城に工場建設へ SBIと、地銀の資金調達

台湾の半導体受託生産大手の力晶積成電子製造(PSMC)とSBIホールディングスが共同で、半導体工場を宮城県に建設する方針を固めたことが27日、分かった。事業規模は8千億~9千億円とみられる。SBIが「第4のメガバンク構想」を掲げて提携してきた地方銀行からの資金調達を検討する。

 PSMCは半導体の受注生産に特化した世界有数の企業だ。両社は日本国内に工場を新設すると7月に表明。全国25カ所を候補地とし、現地視察などを通して絞り込みを進めていた。

 PSMCと同業の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は熊本県菊陽町に第1工場を建設中で、同県内に第2工場の建設も検討している

(10/27共同通信)。

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TSMCで先鞭をつけた熊本

 国内では、コロナ禍でのパワー半導体不足による製造業への多大な影響が生じたこと、また台湾有事を見越して、熊本県の熊本市郊外である菊陽町へTSMCを誘致し立て続けに2棟の巨大工場を進出させることで、熊本は菊陽町の周辺自治体を含めて従業員の住居や関連工場の用地確保に向けた争奪戦が起こり、土地価格の2桁上昇が当たり前という局地的な土地バブルが生じています。

 経産省が支援するのであれば、熊本だけでなく国内でのリスクやチャンス分散も図って欲しいと思っていながら、同じ会社であれば近接した場所での操業が効率的なのでしょうが、熊本だけに兆単位の支援は不公平だなぁと感じていました。

 もちろん、かつて”シリコンロード”と言われた東北に対し、九州は”シリコンアイランド”として、半導体工場が多く立地していたという背景があり、今回の菊陽町のTSMCの建設地に隣接して、ユーザーとなるソニーの半導体工場が立地しているということ、地下水などの水源が豊富であること、そして原発が稼働し、電気料金も安定していることなど、誘致にあたってのメリットが大きいところがあります。

 また、現在は長く続く少子化により、若年層の労働力人口が激減しており、昔の企業誘致感覚で数多いる”労働力”を地元に留まらせるというよりは、一定の”技術者”を集めてこなければならず、、何もない田舎に集めてくることは厳しい状況。

 なので、街中も元気で都市的な要素が残っている熊本市は70万人といえども政令指定都市であり、菊陽町はその熊本市の近郊で九州新幹線熊本駅から接続する豊肥本線で30分ほどの人口4万人を超えるベッドタウンの街。菊陽町は羽田、そして台北とを結ぶ「阿蘇くまもと空港」に近接し、九州道や八代港という高速交通インフラも比較的近く、地元だけでなく、熊本市や他都市からも技術者を呼んできやすい、そして家族で生活するのにも支障がない都市機能を持っています。

全国に半導体工場進出が拡大

 TSMCの第2期も熊本と、不公平感を感じていたところでしたが、従来から立地していた東広島市の米半導体大手マイクロンへの経産省の支援に続き、オールジャパンでの国策会社ラピタスが北海道千歳市への進出が約半年前の2月末に決まりました。

 千歳も、熊本と条件が似ているところがあり、200万都市札幌から30分圏で通勤も可能、当然ながら国内だけでなく、国際線も多数就航する北日本最大の新千歳空港に近接、苫小牧港も車で30分、道央道ICも近く。そして水資源も豊富、なにより広大な土地が格安で拡張の余地が大きいというメリットも。電気についても東北電力や東京電力管内よりは余裕があり(非常時の本州からの融通が難しいのがデメリットですが)。

 このラピダスの進出先選定の際に宮城県内も候補に残っていたとのことで、残念に思っていたところでしたが、結果的に、今回のSBIと力晶(PSMC)のコラボでの大規模半導体工場の立地として選定されたため、熊本県、広島県、北海道、そして宮城県と、結果的に中核地方都市を擁する4地方にバランスよく立地させ、経産省の支援を受けることになり、良かったと思っています。

 なお、”札仙広福”の中で「福岡」の代わりに「熊本」という構図となりましたが、福岡はもともと水資源がネックで、工業は北九州に任せ商業都市に特化した経緯もあり、九州の中のバランスを考えてもベストだったのでは。

 仙台近郊の強みとしては、研究開発と人材供給の面で東北大の存在が一番ながらも、世界的な半導体製造設備メーカーのグループである「東京エレクトロン宮城」も大きいでしょうね。また、女川原発の再稼働に目途がつき、少なくとも操業時には管内の電力事情が安定しているという目算も。

仙台近郊のどこに?

 今回のファクターとして、報道では「仙台市近辺の工業団地などが候補地」とあり、さらに「仙台」ではなく「宮城」に進出とあるので、仙台市外であることは確実です。

 本来、求められる要素としては、熊本の菊陽町や東広島市、千歳市の立地のように、都市近郊の鉄道沿線が望ましい(東広島市は市内に新幹線駅と在来線駅がありながら工業団地は多少駅から離れていますが)ところで、県内の工業団地の分布については、16年前のセントラル自動車(現 トヨタ自動車東日本)の誘致決定時とほとんど変わっていないのが残念なところ。よっぽど、キオクシア(旧 東芝メモリ)が巨大工場を建設している隣県北上市の方が母都市の生活環境が良いというのが。

  過去記事: 産業振興(セントラル自動車誘致他 (2007.10.11)

立地場所として理想は、

  • 母都市の生活機能が充実
  • 大都市(仙台)からの通勤も可能
  • 空港近く
  • 高速道路近く
  • 港が近く

 

 となると、熊本県菊陽町も千歳市も空港の近くなので、それに類するJR東北本線館腰駅周辺の名取市から岩沼市にかけての一帯が立地場所としては全ての要素を満たす最高の立地となります。

 ただ、既存の仙台空港南の工業団地に空きがなく、これから迅速な拡張は周りが農地とはいえ農振農用地の解除と地盤沈下対策、アクセス道路の整備などを考えると、2026年には到底間に合わない。そもそもJR東北本線の東側であれば津波浸水地域であり、それをどう評価するか。

 立地場所を抜きにして、工場自体に求められる要素は、

1 2026年に稼働可能

2 一般的に20ha以上の敷地が必要

3 第二期の拡張も視野

4 東京エレクトロン宮城に近い方が望ましい

 

との必要とされる要素から、現実的な候補地は限られています。

 

【対抗】 愛島台<1◎、2〇、3△、4△>

 名取市であれば、空いているのは、愛島台(愛島西部第2期)で20ha程度はありますが、第二期を見越すと新たな造成が必要で土地に余裕はありません。それにどん詰まりの一時期は開発が放棄された住宅団地に、1000名以上?の通勤者が生じることを考えると厳しい面はあります。

 ただし仙台方面からのクルマ以外での通勤者の足としては、JR館腰駅まで20分程度でそこから送迎バスを設定すれば20分と及第点。

 なにより、アクセス道路は高規格で、空港にもインターにも時間距離は近いという面が。あと水の確保がネックでもあります。

詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)

Medeshima

 

【本命】第二仙台北部中核工業団地<1◎、2〇、3△、4〇>

 トヨタ自動車東日本大衡工場のすぐ近くで、東北道大衡ICにも程近いこの松の平3丁目の区画は20ha以上はありそうです。説明文にも令和7年4月分譲開始に向けて造成中とのことで、ユーザーになり得るトヨタ東日本の各工場にも程近くです。

 最も大きいのは、供給能力に余裕がある県の工業用水が団地内に整備され、既に配管が来ていること。あと東京エレクトロンも同じ黒川郡内で、クルマで30分と遠くはないということ。なお、仙台空港や仙台港には多少距離があるといっても、高速道路(東北道ー北部道路ー東部道路)で一直線で結ばれており、それほどネックにはならなそうです。

 生活環境については、トヨタ東日本も受け入れた実績があるし、大衡村には何もないとはいえ、富谷市・大和町には一定の郊外型商業施設・住宅団地があり、クルマがあれば普通に生活は可能です。ただ、仙台市方面からの通勤は泉区からが限界であり、トヨタ系に加えての大規模半導体工場立地となると、追加の交通渋滞対策が必要となる点がやはり気になります。現在でも、ラッシュ時には双方向の激しい渋滞が発生していますし、

 そうなると、これも以前から主張していることですが、隣接する東北道大衡ICに高速バス停留所を設けて、そこからマイクロバスなどで各工業団地の企業にフィーダー輸送ができないものかと。既に通過している古川・栗原・登米市方面の高速バスを停車させるだけだし、特に宮交の古川線は北隣の三本木で客扱いしているので、小さい投資で利便性が確保されることになるのではと。

 北部工業団地のIC設置構想 (結果的にETC専用ICではなくフルICとして整備されました)

 現在でも大衡村役場までは平日10往復の高速バスが発着していますが、通勤には使えない時間帯の運行である一方、東北道の北行きバスは既に古川や栗原、登米市方面への通勤用で仙台朝7時頃発の便が設定されているので、このような交通対策が講じられると良いのかなとは思うところ。

詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)

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【穴】松島イノベーションヒルズ<1〇、2◎、3△、4△>

 面積が27haと意外にあります。三陸道の松島大郷や松島北ICからすぐで、仙台港や仙台空港へも高速道路で20~30分圏、そして、JR東北本線の愛宕駅から1kmと、比較的広域からの通勤が可能である立地です。ただ母都市である松島町は観光都市で、ベッドタウンとしての生活機能が弱いところがあり、その点大崎市鹿島台や塩釜市、利府町など周辺都市に依存することになります。

 また現在でも利府街道や国道45号など一般道の整備水準が弱いことから、インフラ面で不安はあります。

 そもそも、造成が間に合うのかと思って居ましたが、一応説明文には令和6年供用開始を目指しとあるので、現在進行形で進んでいるのかもしれません。

 沈滞気味の松島町や塩釜市、鹿島台方面への東北本線沿いへ好影響が想定され、また仙台市内からの鉄道通勤も可能な距離であることから、人材確保にはプラスと考えられます。県のバランス良い発展のためには、黒川地区に誘致企業を集積させるのではなく、開発規制が強すぎてこれまで産業面で日の当たらなかったこの地区を推しています。なお、松島北IC付近には東京エレクトロン系列の事業所が大和のテクノヒルズ進出以前から存在していることも、あり得ないことではないと思った理由でもあります。

詳しくはこちら⇒(宮城県企業立地ガイド)

Matsushima

 

【番外編】成田二期北(富谷市)

 最初、100ha以上あり拡張し放題のここが本命では?と思いながらも、調べてみると、区画整理でまだ環境アセス中。造成はこれからだし、南は北部道路、西は東北道に面し、幹線道路から全てこれから整備となると、10年後だったらともかく、ここは無理と感じました。とはいえ、工場拡張の際に土地がなければ、第二期開発には間に合うかもしれません。

 その他、東京エレクトロン宮城が立地する大和町のテクノヒルズも土地があれば大本命になるところ、既に空き区画は東京エレクトロン宮城が抑えており全て完売済であることから、ここもないだろうなと(拡張用地として東エレ取得済の土地を譲渡することはないでしょうし、そもそも11haしかない)。

 仙台圏以外で、高速交通網が整備されているところであれば、白石市にも新IC近接で造成中の「仙台南部工業団地」もあるし、母都市となる白石市への好影響もあり、仙台からの通勤も可能と、良い立地ではありますが、「仙台近郊の工業団地」という表現から、厳しいかなとは思いました。

 

やはり、第二仙台北部中核工業団地か?

 なにより、造成済でトヨタと近接、東京エレクトロン宮城とも遠くない、そして県の工業用水がふんだんに使えるという要素が大きいかと思いました。全国の25か所から選定されたということであれば、ここが一番強みを持つことも納得できます。正式な発表を待つこととします。

 

(あとがき)

 なお、先日の県議選の争点でもあった、村井知事が進める富谷への病院移転の背景として、この巨大工場誘致もあるかもしれません。黒川エリアに総合病院を誘致し、黒川エリア一帯の生活環境を底上げし、居住エリアとしてのイメージアップを図るという理由で。

 先日の村井知事と郡市長との論争を聞いて、

「鉄道沿線外でクルマ依存型のこのエリアに大病院を整備しても患者も医師・スタッフが集まらず、そして将来的な高齢化と人口減は否めず、仙台ではなく富谷に移転した方が将来的に病院の経営が行き詰るのでは」

と感じたところでしたが、黒川エリアへのさらなる企業誘致で人口増をもくろんでいるのかもしれません。まぁ、移転先の市長と既に話がついているような移転の進め方については違和感を拭えませんが、移転する法人(病院)の判断もあり、ここまで反対運動が広がるとどうなるのでしょうね。

※ 細部の表現を修正、及び一部加筆しました(10/29)

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2023年9月18日 (月)

あすと長町の近況(R5.9)~新店舗出店&マンション建設中~

 久しぶりに、あすと長町の近況を。

 最近は、大きな動きがなく、連日の猛暑もあってレポートの意欲が薄れていましたが、ようやく多少は涼しくなってきたので。

tekuteながまちに松屋!

 10月に、長町駅内の商業施設tekuteながまちにオープンする情報がでていた、この牛丼チェーン松屋(マイカレー食堂併設)。

長町エリアの牛丼チェーンは、モール北側に古くから吉野家はありますが、駅前型としてはこの松屋が初出店。

 tekuteながまち内に出店との情報は7月に出ていましたが、コロナに翻弄され閉店した『me&cheese⇒菓匠三全』跡が工事中で、具体の場所が求人ポスターで判明しました。まぁ、7月の求人情報の時点で、「長町駅改札目の前」という表現があり、有力候補とは思っていましたが、狭さは否めないので、アインズ&トルペ跡のローソン隣のスペースの方が広く、可能性もあるのかなと様子を見ていたところ。

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 こちらのローソン脇はまだ動きがありません。なお、2階のそば屋の福はらは撤退し、そのスペースも空いています。

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 長町駅東口ロータリーに面し、タリーズコーヒーの並びになります。JRの改札から徒歩15秒で、サンエトワールと並んで、さらっと食事を済ませたいニーズにこたえる飲食店になります。また、バスは路線により待ち時間が長かったりするので、バス停が目の前というのもポイントが高い。

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 tekuteの外の改札側からも直接入店できるように工事をしていました。たまたま工事中の店内をチラ見。

 この立地で24時間営業するようなので、tekuteの他の店舗が閉まっている時間帯はここから出入りすることになります。深夜バスが発着する23時台や到着する5時台などは、tekute2にオープンしているローソンとともに助かる人がいるかも。

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 なお、tekute内ではありませんが、ロータリー向かいのラーメン店「いわさ」も閉店となりました。

 春から駅前広場ロータリー内の一時駐車場(30分以内無料)が開設され、このいわさとだし廊にはメリットが大きいかなと思っていたところですが、結局一度も行かないままに閉店となりました。なお、亘理町の6号線沿い(田園近く)にも出店しています。

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 長町駅前のラーメン店は競争が激しいというよりも、基本的に朝晩の通勤通学時間帯とイベント時以外は通行量が少なく、全体のパイが小さいこと。さらに田中そばなどの人気店もあり、その牙城を崩せないという印象です。

 やはり、(もはや期待はしていないですが)計画中のイオンタウンのようなSCができないと平日昼間の人の流れが小さいまま。

9月末オープン ドラッグストアモリ&テナント商業施設

 旧国道4号沿いのTSUTAYA長町店と隣接のタイムズパーキング跡地に、ドラッグストアモリがテナント棟と併せて9月末以降に出店です。

 ドラッグストアモリは、近年宮城県内でドラッグストアアオキと共に熾烈な出店競争を繰り広げていますが、これまでは郊外から攻め入っており、長町のような郊外拠点には初出店。

 特徴としては、本格的な食品スーパーを併設したドラッグストアで、ツルハやウエルシアのように、1m程度の幅のおまけ的な生鮮コーナーではなく、1か所のレジで買い物が済むというところが便利なところ。コンパクトなスーパーセンターという印象。

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 長町・あすと長町エリアは、スーパーはヨーク×2、生協×2、ウジエ、ビッグハウス、西友と激戦区である上、ドラッグストアもあすと長町の範囲だけで、ツルハ×2,ウエルシア、サンドラッグ、カワチとひしめいているところで、両方の需要を取りに貪欲に出店です。

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 なお、新幹線高架脇のテナント棟には、モスバーガーと北海道からペンギンベーカリーが出店ですが医療・健康系のテナントと併せまだ半分の入居決定状況です。駐車場が併設されていることから、飲食店の出店などがあればいいなぁと思います。

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2つの分譲マンション建設中

 タワーマンションの建設ラッシュが一段落したあすと長町地区内ですが、現在2か所で新築マンションが建設中です。

詳しくは、以前の記事参照。

過去記事

 あすと長町 2つの分譲マンションプロジェクト(2022/2/21)

①ノブレスあすと長町(ナイス)完売

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 こちらのナイスのマンションは、南側をプレシスとダイワハウスのマンションに抑えられ、東側は新幹線と在来線高架という居住条件としてはデメリットもありながらも、太子堂駅と長町駅の中間でスーパーなどの商業施設にも恵まれた利便性から完売とのこと。このインフレ傾向のご時世で、割り切った形の需要を取り込んだのか。

②あすとレジデンシャル ザ・タワー(野村&ワールドアイシティー)

 こちらは、案の定ヨークタウンから直接入れる利便性をアピールした分譲マンションとして、20階建て190戸の規模で分譲中。大通りを挟んだ系列のマンションの約半分強の戸数ながらも、買い物や駅への近さなどから、バランス的にはパークタワーあすと長町の並び地区内を代表するマンションでは。

ホームページ

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 竣工は2024年秋と1年後。入居は2024年末とのことで、まだまだ先です。

 3LDKで3400万円台からとのことで、詳細な条件は不明ですが、パークタワーあすと長町(ただし西側の線路側でJRの賃貸マンション側の部屋)と同価格帯からのスタートとのこと。

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ライブハウスのPIT仙台に隣接という点は、入居者によって評価が変わるかもしれません。

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 また、南面は平屋のホームセンターコーナンで、今は眺望が確保されていますが、ここは借地かつ既に10年程度経過していることから、跡地利用を考えると安心は禁物で、懸念材料でもあります。

 

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2023年9月12日 (火)

宇都宮にLRT ライトライン開業 その2(開業の効果と課題)

宇都宮にLRT ライトライン開業 その1の続きです。

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ライトラインの課題

 開業後、多くのYouTuberが動画をUPしているため、行かずとも現地の雰囲気を味わうことができる良い時代になりました。

 今年開業した、福岡の七隈線博多延伸、東急相鉄新横浜線は地下路線であり、動画としても絵になり辛い、撮影し辛いところがあったのでしょうが、それに対し、このライトラインはほぼ路面を走る交通機関、かつ車内運賃収受のためホームへは自由に入れ撮影しやすいこと、東京から近いことで話題性も大きいこともあるのかな。

「百聞は一見に如かず」でどういうものかは数多くUPされている動画を見て頂く方が分かりやすいですが、感じたことを何点か。

優れている点

① ICカードでの全扉乗降

 連接車両においては広島電鉄でも開始されていましたが、乗降時間短縮のためには効果的です。現金収受の手間が省けストレスなく乗降車できるので、まさしく”水平エレベーター”的に気軽に使うことができます。

  現在、週末を中心に現金客に起因した大幅遅延が発生していますが、それもICカード利用率が上がること、乗客が慣れてくることで徐々に解消されていくことでしょう。ただ、一定の不正乗車が生じかねないため、対策として国が率先して制度改正し、欧州のように抜き打ち検札での大幅な罰金導入などを図る必要性を感じます。JR九州の無人駅の状況のように、”払った者負け”みたいな風潮が生じて欲しくない。

② 新設軌道で、乗り心地が良さそう

 かつて乗車したことのある、札幌、函館、広島の路面電車は、車両が新しい場合でも、線路が敷設から長期間経過しているためか、ガタガタでバス並みに揺れ、信号でしょっちゅう止まることなどお世辞にも乗り心地が良いとは言えませんでしたが、この宇都宮ライトレールは、軌道も車両も新しいため、その点路面電車のイメージを変えることになりそうです。

③ 双方向に需要あり

 宇都宮駅方面への通常のラッシュに加え、反対方向の複数の大規模工業団地や高校・大学への通勤通学需要があり、片輸送にならないバランスの良さを感じました。これまで完全なクルマ社会で需要が見込める施設が”点在しているなか、多少遠回りになってもうまく線で結んだものだなぁと。

④ バスとの乗り継ぎ、パークアンドライド拠点の整備

 始発停留所の宇都宮駅東口を含め、5か所の停留所でトランジットセンターが整備されました。

 バス乗り継ぎは抵抗があるものですが、路面電車と路線バスがほぼ平面で乗り継ぎができること、乗継割引が大きいこと(100円)、パークアンドライド駐車場も停留所近くにあり、無料で使えるところもあること。この点については、上下移動が必須の地下鉄と比較し乗り継ぎ抵抗が小さいことがメリット。

 一般鉄道も近年は橋上駅や高架化が進むことで、上下移動はエレベーターなどのバリアフリー設備が導入される一方、徒歩での平面移動距離が増え、足腰が弱っている高齢者にとってはキツイということもありますが、LRTとの乗り継ぎは基本スロープを含め平面であること、乗り継ぎ先の車両が目の前に見えることなどで、視覚的に把握しやすく安心ということもありそうです。

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今後の課題

 感じた以下の課題は、将来的に解決が見込めるものであり、少しずつでも実現していって欲しいと思います。

① 速度向上と電車優先信号の導入

 ライトレールの総延長は14.7㎞と、仙台市地下鉄南北線の14.8㎞とほぼ同じです。ただ、全線の所要時間は南北線が28分に対し、宇都宮ライトレールは開業時で48分、来春の快速運転開始後でも37分(各停44分)の予定で、速達性はやや劣ります。

 現在は軌道法の制約で40km/h に抑えられている最高速度が、特例が認められれば70㎞/h(仙台市東西線の最高速度と同じ)まで上げることができ、その場合は快速で33分まで短縮することができるとのことで、早期の速度向上が望ましいところ。

 また、路面電車の特徴ではありますが、交差点での信号待ちの時間が遅さを感じるところであり、開業時には見送られた電車優先信号が導入され、さらに所要時間が短縮されることが、クルマとの対抗上望ましいと考えます。


② 工業団地輸送の速達性確保(遠近分離)

 ホンダやキヤノンなどの工業団地通勤者による大渋滞対策も兼ねて整備されたライトレールであり、クルマからの転移は10%程度でも渋滞対策に効果はありますが、もともと宇都宮駅東口との間で運行されていた着席前提の企業通勤バス利用者が、座れなくなって不評との話が聞こえています。特にホンダは9月から通勤バスを全廃し1000人以上の通勤者がライトレールに移行することになりました。

 新幹線や在来線からの乗換利用者を中心に宇都宮駅周辺居住者が利用していたのであれば、クルマなどLRT以外への流出は限定的でしょうが、「これまで必ず座れ、事業所目の前に30~40分で到着」から、「立ちっぱなしかもしれないライトレールで48分(遅れると1時間近く)、そして広大な事業所内を歩く必要」を考えると確かに不満を感じるのは分かります。

 そのためには、やはり予定通り快速が導入され、宇都宮駅から30分台で到着できるようになれば、途中駅での乗降による車内の動きが少ないことも含め、気分的に速さを感じることができますし、LRTへの転移がスムーズに進むのではと感じます。

③ 西側市街地への延伸

 ただ、このLRT。本来であればバスがひっきりなしに走っており高い需要が見込める『JR宇都宮駅から東武駅までの都心部』から整備するのが自然に感じますが、宇都宮市の特性として、上述の通り「工業団地に集積した大企業工場への通勤負荷の高さ」の解決が必要であることと、西側が先行整備の場合には東北道方面に車庫を確保する必要があったため、東側に車庫を確保しての先行整備となったのでしょう。

 工業団地や作新学院大などへの通勤通学については、宇都宮駅東口発着でも問題ないでしょうが、官公庁などオフィス街はJR宇都宮駅西側に広がっているため、芳賀町やゆいの杜方面からの都心部通勤通学にあたっては、JR宇都宮駅からバスに乗り継ぎ、または徒歩で向かう必要があり、使い勝手が良くはありません。

 それが、2030年代初頭を目標とされている、JR宇都宮駅を高架で超えての西側市街地への延伸が実現すれば、東武宇都宮線方面との乗り継ぎも可能となる他、西側延伸の終点と目されている桜通り付近には高校も点在しており、中心駅を挟んで東西をスムーズに移動できるようになれば、革命的な変化が起こるのは、仙台市東西線(卸町から東北大まで15~20分!) でも実感できた次第。

 開業から2週間経ってもこれだけ注目され、需要予測よりも多い乗客であふれている宇都宮ライトレールに対し、「宇都宮はバスの街」という訳の分からない反対のための主張を繰り返すK産党系には呆れます。仙台でも東西線反対派(K産党系オンブズマン)が、当時「地下鉄反対!LRTが良い」と主張していましたが、宇都宮では同じK産党系が「LRT反対!バスで十分」と、同じ党でも矛盾したことを主張しています。結局与党系が進めていることに対して反対できれば良いのでしょう。ある意味「反対のために手段を選ばない」という一貫性を感じるところ。

 なお、仙台の当時の東西線反対派の残党と思われる方が、Xで「宇都宮のLRTの開業で、仙台の東西軸でLRTが導入されなかった理由の嘘が明らかに」という趣旨でつぶやいていましたが、さすがにLRTで現在の東西線の利用者(8万人/日)は運べんし、青葉山の連続する坂は登れんし、仙台駅の東西をどのようにLRTで超えるのか。共にトンネル掘ったら地下鉄並みに工事費がかかり、LRTのメリットが相殺されるし。

都市間競争に勝ち抜くツール

 このライトレールの開業に向けて、沿線へのマンション林立と地価上昇、工業団地進出企業の莫大な追加投資(キヤノン、中外製薬)と、建設費こそ当初計画の1.5倍と大幅に超過しましたが、それでもこのLRTが整備されるからこその莫大な経済効果。

 そして、これまでは、同じ東北新幹線の沿線の中都市である郡山市と都市規模が変わらない印象もありましたが、その郡山からゼビオの本社移転がなされるなど、熾烈な都市間競争の中、都市の格でも明らかに宇都宮が上になりました。

 そもそも、10年前にゼビオアリーナ仙台に30億投資し整備してくれるなど、仙台重視の姿勢から本社移転が噂された時期もありましたが、89ersの本拠地化にも紆余曲折があり、またライブ活用にしても稼働率の低さに苦しんでいる印象があります。 正直アリーナ整備以降の仙台市の協力が十分だったのかは疑問で、それがもう少し協力的であれば、本社移転の可能性もあったのでしょうが、まぁ関東圏である宇都宮の方が、店舗展開や運営上メリットはあるでしょうしね。なお、持ち株会社は引き続き郡山市に本社を置くようです。

 このような、軌道系公共交通機関の整備に覚悟を決めて、莫大な整備費を出すことが、その都市がその沿線を重視していく宣言になります。

 それは、地下鉄を整備した仙台市が南北線と東西線沿線を中心とした沿線開発、施設誘致を進めているように。1000億もの累積赤字を返済していかなければならず、 利用者増と税収増を図っていかなければならないため、その分地下鉄と一蓮托生でであることは事実ですが。 市がその沿線を見捨てることはなく、安心感はあります。

他都市への波及

 これまで、完全なる新設事例がなかったLRTが宇都宮での導入により、知名度もまちづくり上の有効性も一気に上がりました。

 とはいえ、宇都宮でも30年かけて600億円以上かけてようやく実現した次第であり、これに続く都市が現れるかというと、厳しいものがあります。

 数百億を出して自前の軌道系交通機関を整備できるのは、基本的に政令市以上の都市であり、人口約50万人の宇都宮市が実現できたのは、誘致企業からの税収が豊富で、指数が0.99とほぼ自主財源で賄っている財政力の高さの故でしょうか。国の補助制度拡充の影響もあります。

 LRT網として先行している人口約40万人の富山市は、新設した区間は極一部(環状線、富山駅南北接続部等)であり、大部分は既存の富山地鉄の市内電車とJR西日本から引き継いだ旧富山港線を転換した富山ライトレールをうまく接続させ、最小限の費用でLRTを活用したコンパクトシティ政策を進めています。

コンパクトシティへの取り組みについて(3) ~富山市での取り組みその1 2015.05.05
コンパクトシティへの取り組みについて(4) ~富山市での取り組みその2 2015.09.27

 その点、8年前に将来的なLRT導入も見据えて、BRTを導入した80万政令市である新潟市は、現在JR以外の軌道系交通機関を持たない唯一の政令市であり、玄関口のJR新潟駅と大型商業施設が集まる万代シテイ、古くからの繁華街である古町など都市機能が線状に位置していることから、かつて最もLRTの導入可能性が高い都市ではありましたが、第一弾のBRT導入時点で盛大に躓き、地元マスコミが非協力的という点で、すっかりBRT自体の整備が止まってしまい、専用レーンの整備も実現されていません。

 なおさら、LRTへの移行など夢のまた夢で、自動車の分担率が7割と宇都宮と同等レベルで、公共交通機関の分担率も5~6%とこれも宇都宮と同レベル。その宇都宮がライトレールの導入を実現させたことを考えると、都心部だけでなく、高架化された新潟駅を貫き、駅南方面のイオンモール新潟南、鳥屋野潟のビッグスワン方面への延伸は十分可能性があると思えるのですが、縦横無尽に高規格バイパスが整備され、更なる整備も進んでいる新潟市においては、「バイパスサイコー」「クルマ社会サイコー」という市民の理解を得るのが困難なんでしょう。宇都宮のように、クルマ社会の限界を味わうことがないと、市民が支持しない政策は打ち出せない。

 宇都宮は、ライトレールの運営会社に地元大手の関東バスが入って、バスとの乗り継ぎなども図っていることから、新潟市で実現させるのであれば、新潟交通を取り込むのが必須でしょうが、もうそんな機運が消え失せているのが悲しい。

久々に新潟へ その(2)BRT初乗車 2022.08.03
新潟のBRT雑感とバス相互の乗り継ぎ 2015.09.14

 完全新設でなければ、新潟と同じ新興政令市の岡山市のJR吉備線の約20kmのLRT転換計画は生きているようです。郊外鉄道区間をJRTにしたところで、富山港線(旧 富山ライトレール)のように市内路線に乗り入れなければ、単なる増発と路面電車化に過ぎないように思えますが、それでもJRの路線を地元が引き取り、利便性の高い交通機関として再生させるストーリーは応援したいところ。

 そもそも、地下鉄もですが、LRTはクルマに頼り過ぎない、クルマなしでも生活できるコンパクトシティを進める手段としてのもの。LRTを整備したからといってすべてがうまくいく訳ではなく、このような政策を進めるにあたり、富山市の森前市長や、宇都宮市の佐藤市長など、理念を持ったトップが他にも生まれ、このような動きが続いていけば良いなぁと思います。

 

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